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気象庁が梅雨明けを発表し、これにて名実共に今年の夏が始まった。大変なことも多いが、イベントや行事も多い季節である。学生などは夏休みに入ることもあって、ある意味一年で一番活気に満ちている季節かも知れない。

「素麺が食べたくなるな」

と、斬島が口火を切れば。

「俺はメロンかな。スイカも良いよね。冷やしてみんなで食べたいな」

最初が食べ物だったせいか、便乗した佐疫が少々、女子力を意識してしまう回答。

「冷やしてと言えば、ビールが美味しい季節だよねー」

既に出来上がっている木舌が、半分ほどになった酒瓶を抱えて言う。ちなみに瓶の中身は清酒であるが、無類の酒好きにそんなことは関係無いのだろう。すかさず谷裂に「また酒か貴様!」と怒られているが、何処吹く風である。

「やっぱバーベキューだろ! 肉! 俺肉食いてえ!!」

マンモスとか! と、バーベキューはおろか、どう頑張っても食べられない種類の肉をあげる平腹。漫画に出てくるような骨付き肉をイメージしているのかも知れないが、それならマンモスに拘らなくても、近いものならある筈である。
しかし当時の地球では貴重なタンパク源だったに違いないが、象の先祖であるマンモスの肉というのは、結構硬くてあまり美味しくなさそうだ。

「暑くて何もしたくねえ。食欲も無ぇ。……怠ぃ」

と、田噛はこれまでの流れを丸無視し、言いたいことだけ言って寝る体制に入る。彼らしい回答ではあるが、ノリは良くない。

「うーん、色々ですねえ。谷裂さんはどうですか?」

夏といえば、のお題を何の気もなしに振った少女に問われた谷裂は、それに何だかとても難しい顔をしていた。ギブギブと白旗を揚げる木舌の襟首を離した彼は、「嫌な季節だ」と断じる。

「他の季節よりも仕事がしにくいからな」
「仕事ですか」

仕事、というのは当然獄卒の仕事だろう。それが夏だとしにくくなるとは如何に。
少女は不思議そうに首を傾げたが、他の獄卒達には理解出来たのだろう。確かにそうだ、と斬島が頷く横で、木舌と佐疫は苦い笑みを浮かべた。田噛は寝ている。平腹は……何故か少女と同じように首を傾げていた。

「夏と言えば怪談。もっと言うと肝試しだからね」
「! ああ、成る程」

佐疫の言葉に、少女はぽんと手を叩いた。
彼ら『特務室』の仕事は多岐にわたるが、その中でも多いのが「現世で暴れる怪異や妖怪の退治」や「生者に危害を加える亡者の捕縛」である。そして、そういう輩が出る場所というのは、俗に『心霊スポット』と呼ばれていることが多い。加えて、昨今はネットの普及で、全国津々浦々の『曰く付き』の場所が割と簡単に分かってしまう。
つまり、夏休みという若者の一大イベントが重なることもあり、興味本位で『そういう場所』に行ってしまう者達が増えるのだ。

「そういえば、夏の間はイラズの森付近の警備が厳しくなるんですよね」

地元の人間はそうでもないが、外からやってくる怖い物知らず達が『肝試し』の現場に選んで来たりするのだ。それで毎年怪我人、酷いときは重傷者が出ることもあるのだが、訪れる若者達は必ず一定数はいるのだ。

「やっぱり、『見えない』ものを信じるってのは難しいですからねえ」

見えないから居ない。居ないなら信じない。ある意味ではごく普通の思考だ。それでも、その『見えない』ものを視ることが出来る者達にとっては、「何て馬鹿な事を」と眉を顰めたくなってしまう。

「自分から火中に飛び込む馬鹿共であっても、見捨てるのは規則に反する。かといって俺達の正体を明かすわけにもいかん。やりづらいことこの上無い」

だから夏は嫌いだ。ふん、と鼻息粗く言い放つ谷裂。周りの者達は苦笑したり真顔だったりしているが、否定しないところを見るに、共感するものが多くあるのだろう。

「……ご迷惑をおかけします」

軽い気持ちで振った話題だったのに、予想外に重い着地点に来てしまった。何だか収まりが悪くなってしまった少女は、ぺこりと小さく頭を垂れる。
窓の外では、既に蝉が鳴いていた。
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