CLAP LOG | ナノ
あたしは梅雨が嫌いである。梅雨っていうか、基本的に湿気の多い季節が嫌いである。
理由? まあ色々ある。じめじめするとか、じめじめするとか、洗濯物が乾かないとか、気分が陰鬱になるとか、じめじめするとか。食べ物が腐りやすいとか。じめじめするとか。
……ほぼほぼ湿気にまつわること。もしくは湿気そのものが理由だけども、けどまあ大体誰も彼もそんなモンだと思う。低気圧が続くと偏頭痛になる人もいるらしいし、秋の実りをもたらす以外には本当に厄介な季節だ。
だがしかし。だがしかし、である。
あたしにはそういうものの他に、もう1つ、この季節が嫌で嫌で堪らない理由がある。そして、それも勿論、この季節特有の湿気に由来するものだ。
……え、勿体ぶるな? 煩い最後まで語らせなさい。
高湿度。そして夏が近づいているせいもあって基本的に温暖。日照時間は雨雲のせいで減る。そういう季節。そんな時期には……『奴』が出る。発生する。
『奴』はあたしの宿敵というか、天敵だ。あのうねうねとした見た目。あっちこっちに動く2本の触覚と、その先にくっついた目玉。よく似た親戚で殻のくっついてるのがいるけど、ついでに殻がくっついてる方は可愛いとか持て囃されたりするけど、それが無くなると途端にこんな不気味になるのかってくらい受け付けない。いや、殻がついててもあたしは食用以外受け付けないんだけど。
ってそんなことはどうでも良い。兎にも角にも、あたしは『奴』が駄目だ。うねうねしてて、湿ってるのがぱっと見でわかる。塩をかけて縮むってのも何か嫌。そんでもって極めつけは、『奴』の動きとその痕跡。つぅーっとてかてか光る後を残して、その辺を好き勝手に這い回る、あの気持ちの悪さと言ったら……!

「って何だそりゃ、ナメクジじゃね……」
「風魔咆裂弾(ボム・ディ・ウィン)――ッッ!!」
「どわぁぁああああ!!」

聞くだにおぞましいが故に敢えて『奴』としか言い表さなかったその正体を口にしたシャチが、爆風に煽られて何処か遠くに吹っ飛んでいく。

「あいつも学習しねぇなあ……」
「なっ」

ペンギンとベポがやれやれと顔を見合わせた。一方あたしはというと、口にされた『奴』の名前のせいで、ぶわっと立ってしまった鳥肌を沈めるべく両腕をさする。

「うううう……駄目。ほんと駄目。だから嫌なのよこの季節!」
「しょうがねーだろ、此処梅雨島だし」
「なんでそんな島あんのよ! 一年中雨とかふざけてんの!?」
「『偉大なる航路』後半には一年中雷の島とかあるらしいけどな」
「『奴』が出る季節よりゃ雷のがマシ!!」

きっっっっぱりと言い切ったあたしだが、哀しいことにあんまり同意は得られなかったらしい。「俺は雷に打たれて死ぬ方が怖ェ」などとペンギンが実に甲斐性のないことを言う。

「へえ、意外と弱々しいトコあんのな」
「……あらトラファルガー、いたの」

相変わらずあたしの心臓を取ったまま返さない『死の外科医』。あらいたの、も何も最初からこの宴会には参加していたんだけども、そしてあたしも当然そんなことは知っていたんだけども、もうこのレベルの嫌味は脊椎反射だ。反省も後悔もしていない。

「そういや、丸呑みにすると喉の痛みに効くって民間療法があったな。試すか?」

こ・の・や・ろ・う。……いっそシャチと同じようにぶっ飛ばそうか悩むものの、こいつはどっかにあたしの心臓を持っている。うっかり吹っ飛ばして無くされても困るので、代わりに別の攻め口を突くことにした。

「梅干しの黒焼きも喉に良いらしいわよ。試したら?」

フンと鼻を鳴らすあたし。珍しく笑みを引っ込めるトラファルガー。一触即発。何故かげんなりした顔をするハートの船員達。
酒の席でのこの仁義なき睨み合いは、軽く30分ほど続いたことを最後に述べておく。
ちなみに梅干しはまだしも、『奴』は人間にはおっそろしい寄生虫持ちなので、良い子は絶対触ったりしないよーに!
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