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例えば夏祭りに行くとして、女性の浴衣は多く見かけるが、男性となるとあまり多くはない。それは初詣も同様で、着物姿の女性はあちらこちらにいるが、男性はやはり少ない。なので着物と一口に言っても、女性よりも男性の方がどちらかと言えば視線を買いやすいものだ。
そして俗なことを付け加えれば、その着物姿の男性が所謂『美形』であれば、当然その注目度は更に上がるわけで……。

「どうすんの、あれ」
「……どうしようか」

ひそひそとはぐれないよう手を繋いだ従弟と内緒話をしながら視線を向ける先。そこには普段は軍服姿の獄卒もとい斬島が、派手な柄の着物に身を包んだ女性集団に囲まれていた。……説明するまでもなく『逆ナン』である。

「お休みだって聞いたからお誘いしてみたんだけど……」

獄卒の仕事に年越しも年始めも関係はない。勿論朝は彼ら全員揃い、お節を突いたり雑煮を食べたり上司から引き締めの言葉を頂いたり(お年玉を貰ったり)したようだったが、あとはいつも通りの任務や鍛錬だそうだ。珍しく非番だったのは斬島だけだそうで、ならばと裕介とふたりだけの予定だった初詣に誘ってはみたのだが。

「これは予想してなかったなあ」
「ちょっと見ないくらいの美形だもんね、斬島兄ちゃん」

苦笑する少女と手を繋ぐ裕介も、今は着物姿だ。そして少女も伯父から送られた品の良い柄の着物を纏っている。髪もきちんとマナーに則って結い上げており、着崩れも起こしていない。先程からちらちらと不埒な視線を送ってくる男共は決して少なくないものの、裕介の存在が良い具合にそれをカットアウトしている状態だ。

「裕介君もあと5年くらいしたらああなるんじゃないかなあ」

くすくす笑う少女は暢気だ。裕介は小さく嘆息する。そうしている間に濃紺の着物と羽織を纏った斬島は素気なく女性達の誘いを断っているようだが、初詣でテンションが上がっているらしい彼女たちはなかなか退散する気配を見せなかった。

「……そろそろ行こうよ。こんなところで時間潰しちゃ馬鹿みたいだし」

着物は毎年何かしらの用事で纏っているが、やはり洋装の方が動きやすいのは変わらない。誘いに乗っておいて何だが人混みも好かない裕介としては、さっさと用事を済ませて一休みしたいところだった。

「それは尤もだけど……でもどうする? あれ」

あれ、と少女が指すのは、当然斬島とその周囲だ。斬島も好い加減こちらに気づいているらしく、ひっきりなしに話しかけてくる女性達に埋もれそうになりながら少しばかり困った顔をしている(ように見えた)。

「まあ任せてよ」

そう言うなり、裕介はするりと少女と繋いでいた手を離す。そして人混みを上手い具合によけながら、ぱたぱたと斬島の方へと駆け寄っていき

「こんなトコで何油売ってるの、父ちゃん」

と、斬島の羽織を掴んでやけに通った声でそう宣ったのだった。

「え……お、お父さん!?」
「息子……? うそ!?」

途端に悲鳴を上げる女性陣。斬島が少し驚いた顔で「裕介」と名を呼んだことも、彼女たちの誤解に拍車をかける。本来斬島の外見年齢は裕介くらいの子供がいるようなものでは決してないが、場の雰囲気が誤解を誤解と認識させてはくれないようだ。
裕介は更に駄目押しとばかりに、目を丸くしている少女をこれ見よがしに指さして言った。

「母ちゃんが疲れちゃうよ、早くお参り済ませて甘酒でも飲もう」

女性達の金切り声と一緒に、男性の野太い悲鳴も一緒に上がったことを、最後に付け加えておく。
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