CLAP LOG | ナノ
大晦日。月の最後の日を『晦日』というので、1年の締めくくりである12月31日は『大晦日』となる。らしい。そんな豆知識を教えてくれた閻魔大王第一書記官である鬼神は、

「こんなにのんびりした年末は久しぶりです」

何故かこの狭いアパートの一室にて、暢気の年越し蕎麦などを啜っていた。

「仕事大丈夫ですか」
「あのアホ大王に全部押しつけましたよ」
「大王様可哀想」

聞けば孫もいて家庭もあるというのに、年越しの日にまで仕事に追われているなんて。いや、それは普段の鬼灯も確かにそうなのだろうけど。
……と、そんなことを考えていると、案の定鬼灯からは胡乱げどころかやや殺気すら籠もった目つきで軽く睨め付けられた。

「可哀想なのは普段から仕事をサボられまくってる私の方です」
「それは確かに」

優しく穏やか、微妙な言い方をすれば緩い、悪く言えば締まりの無い閻魔の仕事スタイルは、この『仕事の鬼』を体現するかのような鬼灯とは全くの正反対である。寧ろ大晦日だろうが何だろうがひっきりなしに亡者はやってくるだろうに、今年の今日に限って鬼灯が休めているという事実の方が不可思議と言っていいだろう。

「ていうか休みが取れたのは良いとして、うちに来て良いんですか? どうせならパーっと遊ぶなり何なりすれば良いのに」

彼がやってきのは現世にあるこの家。ぼろっちい安アパートの一室。一応年越し蕎麦は作ったしビールなども山ほど買っては来ているしつまみもあるが、所詮その程度だ。蕎麦はスーパーの蕎麦で、ビールは缶ビールで、つまみはスーパーの総菜である。色気もなければ高級感のへったくれもない。ついでに言うなら、上手にお酌をして男性を良い気持ちにしてくれる(あくまで気分的な意味で、だが)お姉ちゃんもいない。
地獄のNo.2ともなれば所得もそもそも高いし、彼の仕事量なら遊ぶ暇も無く金は貯まる一方だろう。六本木のクラブだの銀座の料亭だの、そんなお高い場所(地獄のそういう場所でも良いが)で飲み明かしたところで罰も当たるまい。

「接待以外でそういう場所を使う気はありませんよ」
「え、接待するんですか鬼灯さん」
「ええまあ。外国の地獄の方々が日本に来たときなどですが」
「おおう外交政策……」

やはりこういうところは地獄とはいえ日本の代表である。思わずビール片手にぱちぱちと拍手をしてしまった。ちなみに彼の半分にも満たない蕎麦は、もう既に胃の中に全て収まっていた。今のお伴は蛸の唐揚げである。

「それに、地獄にいると何だかんだで気が休まりませんからね。現世にこうして出てきた方が仕事モードも抜けます」

蕎麦を食べ終えた鬼灯が、日曜日のお父さんよろしくごろりと横になる。長身の彼が寝ると途端に部屋が狭く思えたが、動き回るつもりもなかったので特に気にはならない。何となく付けたテレビでは男女で分かれての歌合戦が今年も行われていた。

「どっちが勝つでしょうね」
「さあ。ていうか最近の歌手知らないんで、私」
「山風とかあけび48とかならご存じでしょう」
「名前しか分かんないですねー」
「相変わらず枯れてますね。年頃の娘ならテレビの向こうのイケメンにうつつを抜かすくらいしたらどうです」
「鬼灯さんに言われたくないって鬼灯さん以外とアイドル詳しかったですよね、そういえば……」
「うつつは抜かしてませんけどね」

しれっと言い放ち、再びテレビに意識を戻す鬼灯。きっと来年も何だかんだで彼との付き合いは続くのだろうと思うと、少しばかり憂鬱に、そして少しばかり楽しい気分になった。
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