CLAP LOG | ナノ
日本ではすっかり『恋人達の日』みたいな扱いになっているが、欧米でのクリスマスは基本的に『家族のための日』である。パーティに親しい友人を呼んだりすることはあるものの、特に小さな子供のいる家庭では、クリスマスは家族と共に祝うのが基本だ。
そもそも日本のように労働のための拘束時間が長くないヨーロッパなどは、家族内でのクリスマスパーティが最も重要な冬の行事と言って差し支えないだろう。勿論そこまでクリスマスが盛大なのは、日本(というかアジア)ほど正月を意識しないというのも、間接的な理由のひとつだろう。

「仕事ォ!?」

ヨーロッパ出身ではないものの、文化がそちらに割り方近いらしい場所の生まれであるコラソンは、世帯主である女の宣言にこの上なく驚いて見せた。傍らで無関心を装っていたローも、ちょっと驚いたような顔をしてこちらを見ている。

「クリパ準備中に突撃したクソッタレ鉄砲玉がいたんだとよ」

面倒臭そうに頭を掻いた女の傍らには、仕事道具を詰めたアタッシュケースが置かれている。患者の人数が多いらしいので、こちらから出張することになったのだ。追加料金の交渉は既に済ませているので、そこは問題無い。

「パーティしたかったのになあ」

心の底から残念そうなコラソン。相変わらずローの方が反応だけは大人だ。キリエは無言で肩を竦めた。本当に何故この男はこんなに行事ごとに熱心なのだろう。率直に言うと年甲斐がない。

「つーか何だパーティって。ンなモン当日にどうこう出来るか」
「いや、そんな派手なモンじゃなくてさ。チキンとかケーキとかでこう、ささやかにやりたかったっつーか。あとさ」

もご、とコラソンは口ごもる。そして言うべきか十数秒迷った後、早くも痺れを切らそうとした女が立ち上がりかけたので慌てて「あのさ!」と口を開く。

「その、一応用意してたんだよ……プレゼント」

ガタイの良い男が照れくさそうに頬を染めている姿は本来違和感を大いに抱かせるものだろうが、実のところ童顔なコラソン相手だとそこまででも無い。多少は不意を突かれて目を剥いた女は、しかしいまいち邪険に出来ず嘆息した。

「マメだなお前」
「お、俺だけじゃねーよ!? ローだって小遣いちょっと前からこっそり貯め……」
「コラさん!!」

いつの間にか『我関せず』に戻っていたローが悲鳴染みた声を上げたが、全ては後の祭りだ。

「言うなって言ったのに!!」
「わー! 済まんロー!!」

コントのような喧嘩を始める2人はまるっきり同レベルだ。しかし、投下された事実がますます予想外すぎて、普段は半眼になりがちな女の目がまん丸になっていた。
中途半端に持ち上げられたアタッシュケースが、床に落ちて鈍い音を立てた。その音にはっと我に返った女は、視線を少しだけうろ、と周囲に彷徨わせる。

「……もう行くぞ。喧嘩は良いけど備品とか壊したら解剖だかんな」

物騒な言葉を残して家を出たものの、何というか首の辺りの据わりが悪い。重たいアタッシュケースを車の助手席に置き、自分は運転席へ。エンジンを温めながら、カーナビを起動させる。

「デパート近くにあったっけ……」

流石にこのまま、毎年のように『何もしない』で家には帰れなくなった。つくづくほだされてしまった我が身を嘆きつつ、女は胸ポケットから煙草を取り出した。
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