CLAP LOG | ナノ
潮騒の音。海猫の声。そんでもって、潜水艦独特の奇妙なエンジン音。
空は快晴、風は追い風、時化の予兆もなけりゃ、海王類が顔を出してくる気配もなし。季候が安定してくるのは島が近い証だっていうから、多分そろそろ見張り番が島影を見つけるんだろう。

「船長起こしてきてくれよ」

すっかりあたし相手に頼み事をするのに慣れた様子のシャチに言われ、あたしはブーたれながらも従った。何せこの黄色い潜水機能付きの船の主は、普段の隙の無さと打って変わって兎に角寝起きが悪い。何せ困ったことに、起こそうとした側からオペオペで首と胴体をサヨナラさせられてしまう。だけならまだしも、全身ぶつぶつぎりにされて、趣味の悪いオブジェよろしくそのまま数時間放置されてしまうこともザラだ。
少人数とはいえそれなりに船員のいるこの船だけど、そういう無体を働かれないのは奴のペット扱い(いや、立派にクルーだけど)のベポと……不本意ながら、あたしだけ。そのベポが今野暮用で手が離せないとくれば、あたしにお鉢が回って来ちゃうのも、仕方が無いと言えば仕方ないのだ。……本っっっ当に、甚だ不本意だけど。

「入るわよ」

面倒なのでノックはしない。こいつだってあたしの部屋(あたしに宛がわれた部屋、だけど)に入るときは無言だから、今更マナーもクソも無い。部屋の奥に在るベッドに視線を向ければ、布団も掛けず服も着替えず、分厚い本を顔の上に伏せて寝ている男、もといトラファルガー・ローがいた。

「器用な真似してるわね……ほら、起きなさいよトラファルガー」

取り敢えずベッドの側に寄って声を張るものの、微動だにしない。いや、正確には寝息は聞こえるし、胸元も呼吸で上下はしてる。が、起きる気配が微塵も感じられない。

「そろそろ昼食だって。みんなあんた抜きで食べられないから待ってんのよ」

言ってるあたしも正直空腹だ。その苛々も相俟って、声にも少々険が籠もるのは仕方ない。

「トラファルガー。ちょっと、起きなさいよ!」
「んー……」
「んーじゃないわよ! ほら、起きなさいってば!!」
「……の、」
「は?」
「っせえな……」
「んぶっっ!」

ひゅんっ。と何か音がして、次いであたしの顔のど真ん中にぶつかってきたのは枕だった。
……は、何こいつ? 寝てるんだよね? 何このコントロール力……って違う! ていうかこの状況で枕ぶつけるとか何!? こんな見目麗しい美少女(自信はある!)が惰眠を貪ってるあんたを起こしに来たってのに、枕って何!? 普通こういう場合はもっとこう、でろっでろに甘くなるような少女漫画的展開とかって然るべきなんじゃないの!?
……いやごめん、あっても困るわフツーに。つーか枕のがマシだったわ。何考えてんだ私。

「……あーもう、良いわよもう。勝手に寝てれば?」

頑張って起こしたけど起きませんでしたって言えば、まあ他の連中も納得するでしょ。先にご飯食べた位でキレるような奴じゃ無いし(周りが勝手に気を遣ってるだけだし)、何かあったら逆に文句言えばいいだけだし。
そうと決めたらさっさと食堂へ。あたしのお腹はそろそろ限界だ。
――と、今日のメニューは何だったかとうきうきしながら戻ったあたしは、知らない。
『ハートの海賊団』では、不眠症気味の船長が珍しく惰眠を貪っているときは、飯時だろうと何だろうと起こさないという不文律があることを。そんな中、敢えてあたしを起こしにいかせることに、海賊団全体の余計なお節介が働いていることを。そして、

「……もっと色気のある起こし方しろよ」

などと、あたしが出ていった後で、そんなふざけたことをほざいたトラファルガーがいたことを。
あたしはまだ、知らない。
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