「わー、加々知さん凄い似合ってますね」
修道服を纏ったシスターもどきが、普段地獄にいるときの服装で、薬で角も隠していない『本来の』格好をした鬼灯を手放しで褒める。
ハロウィンは元々キリスト教のお祭りではないが、ヨーロッパで盛んに楽しまれているということもあり(そして日本でも近年随分流行っていることもあり)、シスターもどきの出身孤児院でも毎年祝われていた。
……とはいえ1人1人が仮装するお金はないので、ジャックオーランタンの絵が描かれたカードと、袋詰めの小さなお菓子を配るだけの日ではあるが。
「とはいえハロウィンはハロウィンですから、仮装しないとチビ達から非難囂々喰らうんですよ」
なので私も毎年この日はこの格好、と、一回転してみせる。正式に修道女になっているわけでもないのに、やたらと修道服を着慣れているのはそういう理由らしい。
「取り敢えずシナリオとしては、礼拝堂に集まって神父様がお話をしているところに悪魔が乱入。適当に子供と絡んで貰って、その後何やかんやで神父様とシスターがお祈りをして、弱った悪魔はそのまま退散すると」
「悪魔というか鬼ですけどね」
「まあそこはどっちでも良いですよ。節分だって豆ぶつける相手がいりゃ良いんですから」
「貴方は本当時々ビックリするほどざっくりしてますよね」
もしかしてお酒入ってます? と、真面目な顔で首を傾げられた。しかし真面目な顔、とは言うものの、この鬼神はいつも大概表情が変わらないので、いつも大体真面目な顔をしている。
「呑むわけないでしょこんな日に。ていうか科白ちゃんと覚えました?」
「覚えてますよ失礼な。それより今年は良いとして、去年まではどうしてたんです?」
「え? あー、毎年そんな違わないですよ」
今年は鬼灯が居るので肝心の『悪魔役』を彼にお願いしたが、去年も一昨年もこの茶番、もとい寸劇のシナリオは変わらない。台本だって使い回しだ。というか、ある程度の筋書きさえきちんとしていれば、科白なども今更問わない。
「去年は私とか、あとハロウィンに身体があいたOB・OGがやってますね」
「……ああ、そうか。何も貴方だけがあそこの出身というわけではないですよね」
「当たり前じゃ無いですか。まあ毎年参加してんのは私くらいですけど」
「暇なんですね」
「ンなわけあるかい」
酷い言い草である。
「さて、と」
「うおっ、でっかい金棒」
どっこらせ、と鬼灯が肩に担いだのは、それこそアニメなどで鬼が振り回しているような刺のついた金棒である。持ち手のところは鉄棒の棒くらいなのに、反対側は金属バットの一番太いところよりも更に幅がある。
「本物ですか」
「勿論」
そこまで小道具に拘らなくてもいいのだが、何だかその手の冗談は口にしてはいけない気がした。
「ところで1つ確認したいんですが」
「はい?」
「これ(金棒)はオプションとして、逃げる子供に加える呵責は何処までですか?」
「呵責駄目です絶対! 拳骨どころかデコピンも禁止!!」
「チッ」
舌打ちされた! が、此処は譲れない。非常に面白くなさそうな顔をする鬼灯に、彼女は青い顔でぶんぶんと首を振り続けるのだった。