××の秋、なんてフレーズが定着するくらいには、過ごしやすく快適な季節のイメージが強いこの季節。学校行事がこの頃にある学校も多く、田舎の公立高校・上院高校とてその例外では無い。
ちなみにこの時期開催される催し物は文化祭である。学校行事の中でも特に大きなイベント。体育が嫌いな生徒のテンションを遠慮なく下げる体育祭と異なり、インドア派もアウトドア派も楽しめるとあって、この時期は一年で一番盛り上がるのだ。
「というわけで、今年も気合い入れた結果こうなりました」
「いや、何が『というわけ』なのかイマイチ分からないんだけど」
にこにこと悪意無く微笑む少女に対し、彼女に紅茶を煎れていた佐疫は顔を引き攣らせる。ちなみに一緒にテーブルを加工木舌も微笑みに苦いものを混じらせており、真面目な斬島や谷裂に到っては目を剥いて言葉も出ないようだ。
「……すげえな」
「おもしれーな! どうやってやったんだ、これ!?」
そんな中、比較的いつも通りの反応をした『穴掘りコンビ』だけが、思い思いの感想を口にするだけの余裕を持っていた。中でも平腹は、すっかり様変わりした彼女の『髪』を、一応加減した力でくい、と引っ張っている。
「めっちゃ虹色じゃん! すっげー!!」
ミルクティのようなそれに近い茶色であるはずの彼女の髪は、今や頭部の赤から橙・黄・緑・水色・青・紫とグラデーションを描く、所謂レインボーカラーに染められ、ところどころに灰色のメッシュが入っていた。その辺の不良だってこんな訳の分からない色合いにはしないだろうという、そりゃあもうど派手な頭である。
「お前この頭で此処来たのかよ……」
と、呆れ口調でぼやく田噛。
「ちゃんと隠して来ましたよ? びっくりして貰おうと思って」
うふふふ、と楽しげに笑う彼女もまた、いつになくご機嫌だ。実は意外と行事好きらしく、『文化祭』を間近に控えてテンションが上がっているらしい。
「出し物の宣伝も兼ねてるんです。まあ私の場合実行委員もやってますから、そんなにクラスに長居は出来ないんですけどね」
「忙しいんだね。確か体育際? のときも何かやってなかった?」
「そっちは応援団とクラス対抗リレーですね。また来年もやる予定です」
「好きだねえ、行事」
「大好きです」
ようやく調子を取り戻したらしい木舌と顔を見合わせる少女。ちなみに斬島・谷裂の真面目コンビがかかった金縛りはまだ解けていない。余程彼女の虹色頭が衝撃だったらしい。いや、彼ら2名のみならず、多分この場に居る全員が結構なダメージを受けたと思われるが(平腹除く)。
「ちなみに去年はショッキングピンクとシルバーホワイトのボーダー柄でした」
「……うん。もう俺は何も言わないことにするよ」
イベントが楽しみな気持ちも宣伝を派手にする必要性も理解したが、それにしてもどうしてそんな方向に行くのか分からない。と、大人しい外見には大変ミスマッチなレインボーカラーを見て思う。しかし染められ方は丁寧で見事だ。何だろうこの無駄なスキル。
「ほんとはもっと地味にする方向だったんですけどねえ」
「そうなの?」
「はい。でも折角なので。それにほら、これ全部皆さんの目の色ですよっ」
災藤さんの色も入れよう思ったらこうなりました。と、満面の笑みを浮かべてみせる。もう笑えば良いのか呆れればいいのか。石化したままの親友とそのライバル(今日は彼女が来てから一度も喋っていない)を少しは気にかけつつ、佐疫は「まったくもう」と肩を竦めたのだった。