CLAP LOG | ナノ
イロハモミジに、スズランノキ、ニシキギそしてソメイヨシノ。カシワにポプラ。ケヤキにブナ。その他色々。
夏の暑さを越えて涼しくなってくると、落葉樹はまるで先を争うように青々としていた葉の色を変えていく。夕焼けのようなオレンジ色や、眼に眩しい黄色、或いは真紅。中には複数の色が斑になったものもあったりして、春の花々とは違った風情で美しい。
散りゆくものを愛するのは日本人の性で、美しいものを好むのは理性ある生き物の性だ。だから息を呑むほど美しい景色を見て、うっかり時間を忘れてしまうということも有るだろう。

「それで、この有様か」
「はい……」

だがしかし、実際に時間やら何やらを忘れて屋外に居続けるというのは、生物であれば色々弊害が生じるのは当然のこと。

「面目ないです」

心なしか厳しい口調で問うた斬島に、返す声は決まり悪げだ。
地獄にも季節があり、その首都・獄都にも現世で言う自然公園のような場所がある。そこは確かに今頃盛りを迎えていて、テレビでも毎年特集されるほどに見事な紅葉を見せる(ちなみに、春は春で桜や花見の特集が毎回組まれる)。故にこの時期になると、毎年のように連日沢山の魑魅魍魎で賑わっているのだが……それでもこんな雨の日に、傘も持たずに雨晒しの中長時間佇んだりはしない。

「俺が通りかからなかったらどうするつもりだったんだ?」

黒い蝙蝠傘を差して歩く斬島の横を、髪や肩をしっとりと濡らした少女が歩く。白みがかかった薄茶色の髪は、結構な水分を吸ってへたっていた。
ちなみ、関東地方では梅雨である6月よりも、台風シーズンである9月の方が降水量が多い。ただ単に、湿気が少ないから不快指数も少なく、人間が意識しにくいだけである。

「それはもう仕方ないので濡れて帰ろうかと」
「何故そこで式鬼を使わない」

最近はアナログ派の獄卒にすら支給されているデバイスを持っていない生者は、殆ど反射的にツッコミを入れた斬島に苦笑いする。

「でも、本当助かりました。有り難うございます」

流石に風邪は引きたくないですからねえ、とあまり説得力の無いことを言う少女の足取りは、軽い。水たまりの深いところを踏まないよう気をつけているらしく、その足音は普段より少しばかり危なげだ。

「掴まるか?」

何だか転びそうに見えて、そう提案してみる。再び苦笑を返された。

「斬島さん、傘持ってらっしゃるじゃないですか」

そう言われてふと、自分の右手……つまり少女の側の手が塞がっていることに気づく。左手に持ち替えようかと思ったが、そうすると傘との距離が離れて彼女が濡れる。かといって、この男物の大きな傘を少女に渡すのは忍びない。

「……気をつけて歩け」

結局現状維持が一番良いという結論に落ち着いた斬島は、空いた左手で帽子を深く被り直した。上手く言葉にし辛いが、きまりが悪い、そんな感じがする。

「はあい」

やや間延びした返事をした少女は、果たして斬島の心中に気づいているのかいないのか。機嫌良く鼻歌まで歌いだした彼女の髪に、真っ赤なカエデが髪飾りのように咲いていた。
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