血潮より濃く、光より目映き | ナノ


▼ 酒場

屋台巡りOK、換金所でのお宝換金もOK、ついでに宿も確保済み。さっきのおねーさんには約束通り焼き飯奢ってもらって満足。あとは晩御飯と晩酌ってことで、さっき屋台のオッサンに教えてもらった店に向かう。
ちなみに我が家は母ちゃんは下戸だが父ちゃんは酒豪だ。あたしは上手いこと父ちゃんに似たらしく、酒の味には結構うるさい。成人したら父ちゃん祖父ちゃんと飲み明かす約束もしたんだけど、はたしてその約束を果たすのはいつになるやら。
……実家もう何年帰ってないんだっけ。いい加減里帰りもしたいんだけどな。

「ん、おいしっ」

甘口で仄かにバニラっぽい香りのするウィスキーと、オリーブの実が絶妙に合う。さっき食べた海鮮パスタが辛口だった分、晩酌のお酒が甘いと更に気持ちよく酔えて良い感じである。まあ一杯二杯じゃ流石にふらつきもしないものの、ふわっと気持ちよくなれるのはこの程度だ。翌朝にも引きずらんで済むし。
ところでこの店。うっすら暗くて雰囲気もいいし、料理も酒もばっちり。オッサンよく紹介してくれたと思うものの、ちょいとばかし気になる点が。

「ねえねえ! 私もこれ飲みたいなー?」
「あっ、あたしもこれおかわり!」
「お兄さん海賊でしょ? ねえねえお話聞かせてよー!」

きゃはきゃはと、女みっつ並べて『姦しい』なんて言葉がとーってもよく似合う黄色い声。正直同じ女としては聞いててなんだかなーって気分になるが、そんな声がそこらじゅうから聞こえてくる。というか寧ろ、この店では女一人だけのあたしの方がよっぽどイレギュラーというか浮いている。

「半分キャバクラじゃないの、此処……」

ちらっと後ろを見てみれば、綺麗に着飾ったナイスバディのねーちゃんたちが、化粧ばっちり香水きっちりで、偉そうにふんぞり返ってる男たちについて、酌したりはしゃいだり酒ねだったりしている。……間違いなくキャバです、本当にありがとうございます。
何で入店拒否しなかったんだよ店員……とは思ったものの、カウンターのバーテンに聞いたところ、別に率先して『その類の店』にしてるつもりはないらしい。ただ単に、大海賊時代のあおりを受けて海賊の客が激増→海賊といえば大体男→船旅が長いせいで女に飢えまくり→可愛い女の子で奴ら釣ったほうが儲かる、という図式が完成した結果だそうだ。商魂たくましくて何よりである。
必然的に客層が男ばっかの中で、女一人は目立つ。さっきからチラチラ視線が鬱陶しい。ついでに店のねーちゃんを見るような眼であたしを見てくる奴も四割。そしてねーちゃんたちとあたしを見比べ、主に胸のあたりを見てがっかりする奴らが三割。……あ、ダメだ腹立ってきた。意味が分かるだけに腹立つ。誰が大平原の小さな胸だ。どいつもこいつもナーガのオバサンみたいにボンッキュッボンッなわけないだろーが。

「よお姉ちゃん? 一人か?」

とか思ってる間に、さっきの三割から漏れた酔っ払いが、ふらふらこっちに近づいてきた。
つまみに追加したピスタチオを齧りつつ、視線だけそっちにやる。身長はあたしよりに十センチは高い。ビールっ腹で髭の手入れも悪いオッサンだ。腰に差したカトラスが、堅気じゃないことを告げている。髪がやたらと荒れているのは潮風のせいだろう。……まあ、海賊か。一緒に飲んでいた奴らの中でも良い服を着てるのを見る限り、多分こいつが船長なんだろう。

「……」

こういう輩は無視に限る。ポリポリピスタチオを噛むあたし。しかしオッサンは更に近づいてくると、ジロジロとあたしの顔を品定めするように覗き込んできた。

「なあ、こっちで飲まねえか? 一人じゃさびしいだろう」
「……」
「何だ、緊張してんのか?」
「……」
「おい嬢ちゃん。聞いてるか?」

聞いてるよ。聞く意思がないだけで。
しっかしこの男、ひつこい(しつこい)。そろそろ一発ぶちかまそうかと身構える。何かそろそろボディタッチしてきそうだし……とこっそり身構えたその途端。

「いらっしゃいませー!」

ドアベルが鳴る音と、店員の声。それを皮きりに、賑やかだった店内が、水を打ったように静かになったのだった。

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