血潮より濃く、光より目映き | ナノ


▼ 飛翔

「うは―――っ!! 上がったー!!!」

大口開けて喜ぶ一人。その横で一人がふんと鼻を鳴らし、一人はうすら笑い、残りの三人は三者三様の理由で青い顔。
……うーん、面白い。

「全員ってのは前代未聞じゃない? いくら七人の少数でも」

『麦わらのルフィ』、3億ベリー。そのまんま過ぎでしょ二つ名。
『海賊狩りのゾロ』、1億2000万ベリー。海賊なのに海賊狩りとはこれ如何に、と思ってたら昔は賞金稼ぎだったらしい。何があったやら。
『悪魔の子 ニコ・ロビン』、8000万ベリー。……うーんもっと傷のない顔の写真の方がいいんじゃないのか。
『泥棒猫 ナミ』、1600万ベリー。泥棒猫ってあんた。
『狙撃の王様 そげキング』、3000万ベリー……これ本名じゃないけど良いのか。ていうかあの鼻が長いの仲間じゃないの? いないんだけどこの間から。
『綿あめ大好きチョッパー』……ドンマイ、50ベリー。
『黒足のサンジ』……もっとドンマイ、7700万ベリー。あ、ドンマイなのは額じゃなくて似顔絵ね。写真入手失敗って何で。何かあったのか海軍のカメラマン。

「で、あたしがコレか」

相変わらず人相の悪いあたしの写真と、跳ね上がった賞金額。『麦わらの一味』と違うのは、賞金の条件が『Alive Only』ってことぐらいか。
まあ予想はしてたけど、これから先もっと狙われもするだろうけど、まあそれは良い。元々『二代目盗賊殺し(ロバース・キラー)』なんて呼ばれてた頃から、逆恨みしてきた盗賊が狙ってきたことも少なくないわけだし。

「じゃ、あたしはもう行くわね」

麦わらの一味の新しい船が出来たとか、黒髪美人のねーちゃん(ナミに負けず劣らずばいんぼいんだ。もう涙出そう)と一緒に誘拐されてた変態海パンサイボーグまで手配追加されててさあ大変、と大騒ぎになってる一味を尻目に一言。ギャーギャー騒いでた一味が、途端ぎょっとしてこっち見てくる。え、何その反応。

「えー!!?」
「ミュリー、俺たちの仲間になったんじゃねーのか!?」
「いや、言ってないからそんなこと」

手ぇ組むってだけだったでしょ。何忘れてんのと言えば、物凄く不服そうな麦わらのルフィ。おいお前キャプテンだろ。威厳ないな。

「お前すっげー面白いのになァ……空飛べるし」
「そこか」

もっと他にツッコむとこあったでしょーが。自分で言うのもなんだけど。

「そう! そうよそれ! 色々あって聞くの忘れてた!」

泥棒猫もといナミがくわっと目を剥いた。美人ってどんな顔してても様になる。悔しい。

「あんた、あの火とか氷とか何だったの? 本当に能力者じゃないわけ?」
「何度目よそれ。だから悪魔の実なんて食べてないし、カナヅチでもないわよ」
「じゃあフランキーみたいにサイボーグ?」
「あの変態と一緒にしないで」

それだけは心外だ。物凄く。

「まあ良いでしょそんなこと。ていうか話してる時間もなさそうだし、次にもし会えて時間が取れたら教えたげる」

そもそも『こっち』の人間にはまるっと資質の無い能力だ。教えたところで絶対誰にも使えないと思う。こういう言い方するとナルシストみたいだが、本当にこれは『此処』においてあたしだけの特質だ。

「じゃ、あたしは一足先に出るわね。あの変態パンツが仲間に入るよう祈っとくわ」
「おうっ、またな!!」

渋った割にあっさりしてるわね、麦わら。

「またなー! ミュリー!!」
「今度会ったらちゃんと教えなさいよ!!」
「ミュリーちゃぁぁん!! 絶対また会おうなー!!」
「元気でなー!!」

大変騒がしいお見送りありがとうございます。やめてホント一人でひっそり行くつもりだから。
腰にロングソード、背中に少し大きめのザックを背負って街に出る。小走りに向かうのはブルーステーション。この島、ウォーターセブン名物『海列車』の停泊駅だ。ただし今は運休中。あたしがここに来たのは、別に海列車に乗るためではない。
――線路を辿るためだ。
この『海列車』が繋いでいる島は他に三つ。それぞれの距離は船では数日かかるが、海列車であれば数時間で済む。つまり、その程度の距離だということ。方角は大体聞いていたし、今回はこれで問題ない。

「翔封界(レイ・ウィング)!」

口の中で唱えていた『力ある言葉(カオス・ワーズ)』が力をまとい、強烈な風の膜によってあたしの身体は浮き上がる。周りに人の気配はないし、誰が見ていても関係は無い。あとは目的地に向かうだけ。

「待ってなさい、美食の街プッチ!」

いやー、海列車の車掌さんに聞いた時から行きたかったのよね。美食の街なんて呼ばれてるとこに立ち寄らないなんて、グルメハンター(自称)の名が廃るってモンよ、うん。

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