血潮より濃く、光より目映き | ナノ


▼ 喧嘩

女一人であっても、否、女一人だからこそ、一人旅は何かと入り用だ。貧相な格好してると、魔物に襲われた時困るし、人間でもチンピラに絡まれる可能性が高くなる(いちいちぶっ飛ばすのは面倒くさい)。野宿は出来るだけ避けたいし、お風呂だってきちんと入りたい。武器は……父ちゃんから譲って貰ったやつが最高だからこれ以上要らないけど、手入れの道具は必要だ。
とはいえ、旅をしている以上定職には就けないし、護衛や魔物退治の依頼を受けるにしたって、そう都合よく割のいいものが降ってくるとは限らない。節約倹約はなるべくするにしたって、使うところで使わなきゃ行き倒れだって有り得る。
じゃあ、どうするか。あたしの母ちゃんは、それを実に手っ取り早い方法で解決した。そしてその娘であるあたしも、母ちゃんの教えに従ってその通りに金品を頂いている。
――何をしているか。勿体ぶらずサクっと言うと、すなわち『盗賊いぢめ(はぁと)』である。ちなみに命名は母ちゃんだ。あたしではない。
具体的に言うと、要するに『商人やら誰それやら襲っては殺して金品蓄えてるあくどい盗賊共の住処を襲って壊滅させて、ついでにその貯め込んだ御宝を頂戴しちゃおうっ!』ってことだ。襲われた盗賊にしてみりゃ『いぢめ』なんて可愛いもんじゃないだろうが、まあ自分らも散々やってきたことだから自業自得だろう。
『悪人に人権はない』――それはあたしの母ちゃんの金言であり、あたしが幼いころから叩きこまれてきた人生指針の一つである。ちなみに言葉を生み出したのは母ちゃんであるが、所謂『ロクデナシには何をしてもいい』という方針自体は、あたしの祖父ちゃん祖母ちゃん(勿論母方の方だ)は勿論、伯母さ……じゃない、母ちゃんの姉ちゃんも持ち合わせている。要するにあたしの実家は(父ちゃんを除いて)筋金入りの『悪党に容赦のない一家』だと考えて間違いない。
そしてその血を色濃く引いたあたしもまた、悪人に容赦なんぞ「そんなもんかけるくらいならご飯にかけてモグモグしちゃるわ」と思っている。……ちなみに「今のどっかで聞いたことあるフレーズ」だと気付いたお嬢さん方、お願いだから黙っててちょーだいね、と。
まあ何はともあれ、悪人に人権は無いのだ。それが山道に巣食ってる盗賊だろうと、街を襲ってる海賊だろうと、その辺のチンピラだろうと麻薬組織だろうと、その麻薬組織と繋がっている海軍だろうと関係はない。あたしの判断で悪人であればそれは悪人なのだ。ぶっ飛ばそうが何しようが、誰かに文句を言われる筋合いもない。
大体そんな奴ら、放置してた方が人様に迷惑が及ぶ。善良な市民の皆様にも、何よりあたしの不快指数と懐事情のためにも、草の根も残さず駆除してしまうのが優しさってもんじゃないのか。

「というわけでね、この手配書に関しては甚だ不本意な思いしてるわけなのよ」
「寧ろ手配されて当然だと思うんだけど」

ぴら、と目の前で胡坐かいたアホヅラの前に差し出したのは、何を隠そうあたし自身の手配書。そこには一体いつ撮ったのか、髪を手でかきあげ、上からややメンチ切ってる超悪人面のあたしが映っている。ちなみに額はなんと9000万ベリー。ふざけてるのかと言いたい。何だこれ。あたしが一回盗賊いぢめるよりも相当高い。
オレンジ髪の(もう歯軋りしたくなるほど羨ましい我儘ボディだ。くそう)美人のねーちゃんが、呆れたように口にした言葉は無視。「でも海賊襲ってそんだけ儲けられるなんていいわね」とか言いだしたし。何か目がベリーになってんだけど。ちょっと同類の匂いするんだけど。

「すっげーなお前、ゾロより高ェ!」

と、やけに楽しげに笑う麦わら帽子。お前は馬鹿か。あんたらと違ってあたしはこういう評価は不本意だっつってんのに。

「冗談じゃないわよ。寧ろこの額もらえるんなら積極的に出頭する勢いなんだから」

大体犯罪組織と癒着してる海軍駐屯所と、その実態に気付けない海軍本部が馬鹿なだけでしょーが。何でそれを(力技で)解決したあたしが悪者なんだって話。

「諦めろ、政府なんてそんなもんだ」

別に札付きでも不便は無ぇぞ。とか言いだす緑色のマリモ頭。煩い。お前も馬鹿か。横で「ああ、何て哀れなんだこんな細くて儚いレディ……!!」とか泣いてるくるくる眉毛のにーちゃんを見習え。……いや、あれはあれで何か対応に困るけど。
つーか細いとか余計なお世話だわ。どうせ貧乳だよチックショウ。

「と・に・か・く! あんたらこの列車で世界政府に喧嘩売りに行くんでしょ? 丁度いいから是非ともあたしも付き合わせて欲しいのよ」

ダメ? とか聞いてみるが、今さらこの列車降りろとは言いづらいだろう。外物凄い嵐だし、見るからにお人好しっぽいし。

「ふーん、そういうことか。別にいいぞ!」
「ノリ軽っ」

まあ好都合だけど。

「決まりね」
「……ちょっとあんた、本気? 世界政府ってどんだけ凄いか分かってる?」

青ざめた顔でねーちゃんが聞いてくる。けど、あんたらもその『凄い世界政府』に真っ向勝負挑みに行くんでしょーに。それなら頭数ひとつ増えたっていいことしかないでしょうが。

「それはそうだけど……」

まあ細かいことは気にしない気にしない。協力してやるってんだから喜んどきなさいよ。

「あたしミュリエル。ミュリーって呼んで」
「おれはルフィ! 海賊王になる男だ!」
「あら大層なことね。じゃあ世界政府になんて負けてらんないじゃない」
「当たり前だ!!」

まあやってることはただの馬鹿っぽいけど、馬鹿となんちゃらは紙一重っていうしね。

「じゃ、エニエス・ロビーまでよろしく」
「おう! よろしくなミュリー!」

これで状況改善が出来るなんて期待しちゃいないけど、一泡吹かせられりゃ大満足。
転んでもただで起きたら貧乏人。どうしても利益が上げられないなら、相手を引っ張って転がり落ちりゃいいのだ。

「何かコエーこと言ってる!!」

おっとつい本音が口から。……ところでこのモコモコはタヌキ? 鹿?

「トナカイだ!!」

うわお、それは失礼。

[ back to index ]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -