血潮より濃く、光より目映き | ナノ


▼ 嫌悪

海賊の敵は海軍や賞金稼ぎだけじゃないってのは、今更の話だ。名のある海賊を討ち取ることだって悪名を轟かせるには十分な効果があるし、下手な政府の連中よりも、同業者の方がお宝やお金その他貴重品を持っていることの方が多いからだ。
だからまあ、最近名を上げている『ハートの海賊団』を偶然見つけて、我こそはと狙う馬鹿共だっていても可笑しくはない。おかしかないんだけども。

「空気読みなさいよモブのくせに」

っていう、まあ、あたしが言いたいのはそれだけのことだ。

「お、お前、確か『大厄災』……!?」
「なんでトラファルガーの船に!?」

うっさいわね詮索すんな!

「氷霧針(ダスト・チップ)!」
「ぎゃああああ!!」
「いたたた!? 何だコレ痛い痛い痛い!!」

無数の氷の礫が、さながら突風に舞う砂のように無駄に体格の良いモブ海賊共に突き刺さる。所詮氷の粒だから威力は低いのは見ての通り。だけどコレ、単純に当たると痛いので隙が出来やすいのだ。でもって、

「振動弾(ダム・ブラス)!」

手のひら大の小さな赤い玉。それに当たった海賊の1人と、その周りに居た3、4人が一緒に吹っ飛ぶ。煉瓦の塊だの鉄の門だのも吹っ飛ばせる高威力の術だけども、こっち側の人間はあたしが知っている人間より遙かに丈夫なので(特に海賊だの海軍だのは)、この程度じゃあ死んだりしない。
吹っ飛んだ連中が次々に海に落ちていく。あーいい気味。トラファルガーもこのくらいあっけなく倒せればいいの、に!

「っと!」

後ろから振り下ろされた斧を飛んで避ける。斧はそのままイエロー・サブマリンの甲板を切りつけ、嫌な音を立ててついでに傷も残した。

「危ないわね!」

腰の斬妖剣を抜いて、一閃。そこらの剣よりも遙かに斬れる――というか、斬ることにのみ特化した――黒い刃は、斧の柄ごと相手の胴体を袈裟がけに切り裂いた。あたしはよろめいたデカブツの頭を蹴り飛ばして、そのまま海に落とした。

「やるじゃねーかミュリエル」
「ったりまえでしょ、あたしを誰だと思ってんのよ!」

シャチが口笛を吹いた。あたしはべーっと舌を出す。
しっかし狭い船の上だとあんまり威力が強い術も広範囲の術も出せないからめんどくさいわね。まあ『ハート』の連中はお揃いのツナギ着てるから、敵味方の区別は付きやすくてその辺は有り難いんだけど。

「『ROOM』」

げっ。

「シャンブルズ」

半透明の青いドーム。その中に入ったまま立ち止まっちゃった馬鹿な海賊達の手足や胴体が次々に輪切りにされ、そんでもってくるくるっとその配置を換える。手の位置に足が映えて、首と胴体が逆さまになる。結構愉快な光景だけど、こいつ……!

「ちょっとトラファルガー! アンタまたあたしを巻き込もうとしたでしょ!」

あと0.5秒でも遅かったらあたしもあそこの仲間入りだったに違いない。がなるあたしに一瞥もくれず、トラファルガーはふんと鼻だけ鳴らした。

「戦闘中にトロトロしてる方が悪いんだろ」
「誰がトロトロしてるってのよ! 大体これは協調性の問題でしょーが!!」

ていうかそこ! 「協調性とかお前が言うな」って顔をするんじゃない!!

「ミュリエルー、船長は別に俺等巻き添えにしないよ?」
「『ROOM』は中のモン無差別攻撃するためのモンじゃねーしな」

アイアイと叫びながらトリッキーな動きで敵の船員を蹴っ飛ばしていたベポが、華麗な着地を決めながら言う。あといつの間にか近づいて来ていたペンギンも。

「……そんなのあいつの気分次第でしょ」

こいつらに答えるあたしの顔、一体どんな表情してるんだろう。間違っても笑ってないことは分かる。きっと苦虫をじっくりゆっくり噛み潰したときみたいな感じなんだろう。

「そんな信用出来ねえか?」

再び高く飛び上がったベポが、トラファルガーに距離を詰めていた大男を海に叩き音とした。船の大きさが潜水艦より一回りでかいこともあって、相手の船員は『ハート』の倍くらいはいるらしい。いちいち数えないけど。どうせモブだし。

「空断壁(エア・ヴァルム)! ……何がよ」

一応答えるあたしもサボったりはしない。いや、別にこいつらに協力してるつもりは無いんだけど。あくまで一応この船に乗ってる身としては、此処が沈没したり他の連中に乗っ取られたりすると困るのだから当然だ。まあ一番はストレス解消だけど。

「船長だよ」
「は?」
「うちの船長、そんな信用ならないか?」

確かに悪名は高ェけどよ。なーんてほざくペンギン。何々、あんたらしくないわね、とは思うものの、面倒なので言わないでおいた。あたしってば優しい。とはいえ、

「いきなり自分を気絶させて心臓抜き取るような奴を信用しろっての?」

あたしのトラファルガーへの疑心暗鬼その他諸々負の感情が何処に起因するかなんて、一番はこれだ。これに尽きる。まあむ、む、胸のこととかも色々有るけど! 勿論!

「……だよな」

聞いた割にペンギンはあっさり引き下がった。何なのよ一体。

「ちょろちょろしやがって……んの、アマァ!」
「あっ……」

やっば、しくった。自分の手首と、痣が出来る程そこをギリギリ握ってくるデカイごつい手。捕まった。そう認識した途端――全身を怖気が走る。

「モノ・ヴォ……」
「ぎぇっ!」

嫌だもう気持ち悪い!! ぶわりと体中の粟立つ感覚に、舌が吊りそうになった。
何とかそれをかみ殺して電撃を喰らわせようとしたあたしより早く、何処からか飛んできた敵の身体があたしを捕まえていた奴を巻き添えにぶっ飛んだ。
まさかと思って飛んできた方を見れば、意味ありげにこっちを見つめているトラファルガーと視線が合う。

「……っ、振動弾(ダム・ブラス)!」

助けなんか頼んでない、なんて言葉は咄嗟に呑み込んだ。かといって素直に御礼を言えるわけもなかった。代わりにトラファルガーの死角から銃を向けていた馬鹿をぶっ飛ばしたら、何かやっぱり意味ありげな目をされた。……やたらと艶っぽい笑みもつけて。

「余所見してんじゃないわよ……!」

喉から絞り出すような声に、あたし自身がびっくりした。きっとトラファルガーにはこの喧噪で届いていなかっただろうけど、別にそんなことはどうでも良かった。

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