血潮より濃く、光より目映き | ナノ


▼ 対峙

やっすいラム酒らしいものをカパカパ飲んでるシャチと、面倒くさそうにまだ未開栓の瓶を遠ざけているキャップ、もといペンギン。たんこぶの無くなった頭を、シロクマのベポが未だ不思議そうに撫でている。
暫くそんな奴らの漫才を見ていたあたしを、唐突に話題に戻したのはシャチだった。

「けどまあ、今のミュリエルもなんか凄かったな! アレ、怪我なら何でもいけんのか?」

……探られてる? いや良いか、それよりもあたしはトラファルガーの情報が知りたい。

「何でもってわけじゃないわね。対象者の体力にかなり依存するから、あんまり重傷だと怪我治す前に衰弱死させちゃうわ」
「へえー、じゃあ軽い怪我なら治せる感じか?」
「まあね」
「便利だなそれ! 俺とか生傷絶えねぇからさー」
「それはお前が不注意なだけだろ。船長に手間かけさせんな」
「あで!?」

ボコッ、とペンギンがシャチを殴った。この2人の力的関係は誰の目からも一発で分かるから面白いような、逆につまんないような。

「ちょっと待って。何でそこでトラファルガーが出てくんのよ」

なるべく嫌な顔を作って、「話題にするのも不満です」とばかりに口調を尖らせる。半分以上本音だけど、探っているのをなるべく悟られないようにしなければ。

「へ? ああミュリエル知らねえのか。うちの船長、船医も兼ねてるんだよ」
「……」

いや、そういえば聞いたことあったわ、それ。『ハートの海賊団』船長兼船医、トラファルガー・ロー。……ぱっと見の不良っぽさのせいで医者の印象抜け落ちてたわ。盲点盲点。

「『死の外科医』なんてブッソーな渾名つけられてっけどさ、実際名医だぜ、船長は。まあ、海軍はオペオペの実の能力者ってだけで名前付けたみたいだけどよ」
「……ふーん」

オペオペの実、と。頭の中で確実にメモする。とはいえ名前から能力の察しにくい実だ。死の外科医……外科……まさかとは思うけど、手術(オペレーション)のオペでオペオペだったり?
……結局安直か。どうなってんだ悪魔の実。

「おい、シャチ」
「んー? 何だよ、ペンギン」
「あんまべらべら喋ンな。船長に殺されるぞ」
「ええー? そうかぁ?」

つっまんねーの、とまたラム酒を流し込むシャチ。ペンギンは素知らぬ顔。
……ペンギンのせいで話題が途切れてしまった。結局分かったのは実の名前だけという始末。不作だ。
……仕方ない。

「……あれ? ミュリエル何処行くんだ?」

話しかけてきたのはシロクマだった。……お前さっきまで大人しかったのに何故今話しかけてくる。そこは見逃せよ。

「気分転換よ。此処、お酒臭くて悪酔いしそう」
「はあ!? 俺のせいかよ!!」
「真っ昼間から飲む趣味は無いの。じゃあね」

噛みついてきたシャチをあしらって、食堂を出る。取り敢えずこれ以上あそこに居ても、もう収穫は望めそうに無い。

「……」

流石に数日居れば、この船の大まかな構造は大体分かるようになった。この船は潜水機能を持っていて、海軍の出没する海域や、天候の悪い時なんかは海中を良く移動する。
敵が比較的気安い場所に船員の部屋があり、食堂も割と外に近い。船長もといトラファルガーの部屋は一番奥。逃げにくいけど、敵も到達しづらい場所だ。その更に奥の地下の方に、食料庫や厨房や動力室、そして

「やっぱり此処にいたわね」

書斎がある。

「何だ、ミュリエルか」
「……」

気安く呼ばないで、なんて、もう意味の無いことは言わない。どうせ言ったところで無駄だってのは、この数日で嫌って程分かった。
相変わらず性格悪そうな顔したトラファルガーが、分厚い医学書片手にそこにいる。あのでっかい刀はいつも通り持ってるけど、それ以外に武器は見当たらない。……まあ、こいつの能力に余計な武器は不要なんだろうけど。

「トラファルガー」
「……何だ?」

この数日で得られた情報は少ない。けどこれ以上粘っても、正確なところの分からない、賭の期限が迫るだけだろう。あたしらしからぬアホみたいな状況と計画だけど、もう仕方ない。元々面倒なことは丸ごとぶっ飛ばすのがうちの家訓だ。

「あたしの心臓、返して貰うわよ」

恐らく、殺されはしない。それなら、一度くらい捨て身になってみようじゃないか。

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