▼ 雑談
あたしたち魔道士が使う魔術には、大きく分けて3種類ある。白魔法、黒魔法、精霊魔法だ。どれがどんな魔術なのかは、大体字面で分かると思う。ちなみに一般的な白魔法と精霊魔法は成り立ちがほぼイコールで、実際に『神の力』を借りた魔法を使う人間は殆どいない。これについてはまあ、詳しく説明しようとするとあたしの両親がまだ結婚してなかった頃まで時代を遡る必要があるので、此処では割愛しておく。
あたしの母、リナ・インバースは、大まかに分類するところの黒魔道士だ。とはいっても所謂相手を呪ったり祟ったりするタイプではなく、攻撃的・実践的な魔法を使役するという意味での黒魔道士である。この場合の『攻撃的』『実践的』な魔法というのは、決して黒魔法だけではない。攻撃用の精霊魔法の大部分も含まれる。一般人にとっては、攻撃に使うものは何でも黒魔法に分類され、治癒や病気治療の魔法は何でも白魔法になってしまうのだ。
そういうわけで、あたしも確かに分類されるところの『黒魔道士』なのだが、だからといって他の2つが使えないわけではなく、寧ろ得意な方である。何処ぞの教会に入信しなきゃ教えて貰えないような、高度な回復術などは流石に使えないが、それ以外は割とまんべんなくいける。そうでなきゃ、世知辛い世の中を、四捨五入して10の子供(幾らどんなに可憐であっても! である)が渡っていける筈も無い。
……で。
何であたしがそんなどうでも良いこと、つらつら考えているかというと。
「うおー!? 何だ今の!? 何だ!?」
「ベポ! 頭大丈夫か!?」
「うん、平気……ってやめてその言い方だと俺の頭おかしいみたいじゃん!」
「おおすげえ! 腫れが引いてるじゃねーか!!」
「おいミュリエルお前何したんだ!? 悪魔の実か!?」
うっかり気の向くままに、初歩(ここ重要)治癒術でうっかりシロクマの傷を治してしまったことで発生した、この喧しさのせいだ。
うわ、つーかマジうるさい。何これ。ていうかその安易な悪魔の実判定マジやめろし。
「だからカナヅチじゃないっつってんでしょーが」
「うぼ!?」
イラッときたので『悪魔の実』言い出したキャスケット帽の頭を引っぱたく。うぼって何、うぼって。何か気持ち悪いわねその悲鳴。
「お前が殴ったせいだろーが!!」
あ、聞こえちゃった? めんごめんご。
「ていうか、ホントあんたらのその安直極まりない判定何なのよ。取り敢えず訳わかんないことあったら悪魔の実のせいにしてない?」
「ええー……?」
「だってンなデタラメ能力見せられたらさぁー」
「悪魔の実だって思うだろフツー」
知らんがな。
「それはあんたらの常識でしょうが。あたしの常識は違うの」
「そりゃまあ、ムカツクってだけで軍艦沈めるような奴の常識とはちg」
「何か言った?」
「ナンデモアリマセン」
目の前に愛用のトイレスリッパをぶら下げてみる。お口チャック。賢い奴は嫌いじゃない。別に賢くなくはないんだろうけど、どうも口が軽くて言わんで良いことをぺらぺら喋る。あたしこの船に乗って早数日だが、こいつがトラファルガーの怒りを買って、霊の能力で首だけにされるところを既に1日1回のペースで見ている。
「……大体、デタラメっていうんなら、あんたらの船長も大概じゃない」
「ああ、船長のアレ?」
あんなセコイ能力、と顰めっ面をつくる。
「すげーだろ! 悪魔の実の中でも最強だと思うぜ! 多分!!」
「何でお前が自慢げなんだ、シャチ」
「いいだろー別に。俺達の船長なんだからよぉ!」
どうでもいいっちゃ良いんだけど、このテンション、こいつは昼間から飲んでるんだろうか。
……呼気が酒臭いし、もしかしなくても飲んでるのか。水にしろ、水に。何のために冷蔵庫があるんだか分かりゃしないじゃないか。