血潮より濃く、光より目映き | ナノ


▼ 拉致

鋭く放ったあたしの『力ある言葉』から生み出された炎は、普通のそれではなく魔力によって生み出されたもの。水や風で消すことの出来ないそれによって、チンピラ海賊がまるでネズミ花火みたいに跳んで跳ねて逃げ惑う。

「おっかねェな」
「……チッ」

奴らと一緒に、というか寧ろメインで丸焼きにしてやろうと思ったトラファルガーは、いつの間にやらあたしのすぐ隣に避難していた。……どうやらまたあの能力を使ったらしい。余裕っぽい笑い方が本当に憎たらしいったらありゃしない。

「直接斬り殺した方がスッキリするかしらね」
「おい、目がマジだぞ」
「当然よ。本気で言ってるんだから」

もう下の海賊達は壊滅状態だ。今更反撃してくることもないだろう、あのパニック状態からして。
恐らく停泊させた船の方にはまだ敵がいるんだろうけど、どうせ船番程度の人数に違いない。さっき向かってきた奴らの中に船長っぽいのもいたから、あれ以上の戦力がやってくることも無いだろう。

「やめとけ、そこは俺の能力の圏内だ」
「……」

ブゥン……と、何とも言えない、ちょっと背筋がぞわぞわっとするような音。そして創り出されるサークル。口の中に苦いものが広がったような気がして、あたしはこの場に唾を吐きたくなったのを何とか堪えた。

「ほんっっと嫌な奴ね、あんた」

んべっ。思いっきり舌出してやれば、「ガキか」とやっぱり鼻で笑われた。煩い煩い煩い! そっちこそ、そのガキ相手にいちいちうっさいのよ!!

「キャプテーン!!」
「……と、ああっ! 昨日のスリッパ女!!」

腹いせにもう一発なんかぶちかまそうかと思った矢先、何か聞き覚えのある声が下の方から。……てゆーかオイ、誰がスリッパ女だ、誰が。

「どうした、お前ら」

見下ろした先には、昨日確かに見たオレンジのツナギ着たシロクマと、失礼発言かましてきたキャスケット野郎がいた。何か焦ってるっぽい。

「大変なんスよ!」
「海賊でも来たか?」
「いや、それは大丈夫なんスけど……つーか早く降りてください! その海賊のせいだと思うんスけど、島の奴らが海軍に通報したらしくて!!」
「軍船が近づいて来てるんだよー! それも2隻!!」

……なぬっ。

「近いのか?」
「結構近い! エニエス・ロビーの側だからかも!」
「そうか」

うっそ。あんだけボッコボコにされといてまだ余力あったの? ……いや、確かにあれが全兵力だった訳じゃないのは知ってるけどさあ。

「先の麦わら屋達の事件で手薄かと思ってたんだが……」

おい、何故意味深にこっち見る。あたしに責任があると言いたいのかコラ。

「大厄災屋」
「……何よ」

あ、何かすごいヤな予感。

「海軍が来るらしい。匿ってやるよ」
「……はァ?」

何を言ってるんだ。意味わかんないんだけど。っつーか。

「結構よ。あんたに借り作ると碌なことなさそう」

きっぱりお断りする。っていうか一人なら幾らでも逃げようあるし。ていうかあたし、あんたらと違って隠す船もないし。
と、心の底から断ったというのに、トラファルガーは何か違う解釈をしたらしい。

「遠慮すんなよ」

と、またもやあの嫌らしい笑みを浮かべたかと思えば。

「シャンブルズ」
「は、」

不覚にも存在を忘れていたサークルの中で、あたしは生まれて初めて瞬間移動を経験した。

「!?」
「暴れんなよ」

気がつけばあたしは屋根の上から降りていて、それはトラファルガーも同じで、トラファルガーの手は何故か、あたしの腰のあたりをぐるっと掴んでいる。

「ずらかるぞ、お前ら」
「アイアイ、キャプテン!」
「ちょっ……! 待ちなさいよ! 何なの一体!?」

ふざっけんじゃないわよ拉致じゃないのコレ!! と、呪文より先に文句が口を突いて出たあたしは、それなりにパニックだったんだと思う。

「ちょっと黙ってろ」
「っぐ」

遠慮の無い腹パンを鳩尾に入れられたあたしの意識は、あっという間にブラックアウトした。
字がを失うその一瞬前に、あたしが考えたことは単純明快。

……取り敢えずトラファルガー、目ェ醒めたら絶対ぶっ飛ばす。

これだけ。まさか目を覚ました直後、自分が『あんな状況』におかれるなんて、そのときまであたしは考えてもみなかった。

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