血潮より濃く、光より目映き | ナノ


▼ 能力

「『Room』」

さっきも聞いた、たった一単語。そして同じように現れる。立体的なドーム上の何か。得体の知れないそれに(しかし残念ながらあたしもその中にいることになる)、勢い余って次々入ってくるチンピラ海賊。
そいつ等の首が、胴体が、手足が、スパンッと何の抵抗も無しに輪切りにされてしまう瞬間を、あたしはばっちり確認してしまった。

「……うっそぉ」

輪切りに、とはいっても、不思議なことに、切断面からは血の一滴も出ていない。それどころか、あっちこっち切断されてバラバラになった海賊達は、恐ろしいことに全員生きて悲鳴を上げたり眼ェ剥いたりしている。

「おいそれ俺の足!」
「お前手が6本あるぞ!?」
「いてえ!」
「お前俺の身体踏むなよ!!」

なんつー光景……一種のホラーだ。悪魔の実ってのは魔道士にすら理解不能の奇々怪々な現象を起こすから恐ろしい。個人的に一番不気味だと思ってたのはハナハナの実だったけども、正直これも良い勝負だ。

「おい、大厄災屋」
「何よ。ロリコン外科医」
「ロリコンじゃねえ。……良い機会だ、一時共闘しようぜ」
「『共闘』? 休戦じゃなくて?」
「共闘にしとかねぇと、お前俺まで攻撃対象にするだろ」

……。

「とーぜん」

さっきあんたにぶちかましそこねた分が残ってんのよ。……しかしこの海賊団、一人一人は雑魚の割に数は多いな。他の方向に行ってたっぽい仲間も集まってきた。
まあ正直お互い1人でもどうにでもなるだろうけど、今後のために出来るだけあたしの手の内を知っときたいってハラだろう、こいつは。


「足引っ張らないでしょーね」

そして、あたしも。

「ハッ、誰の顔見て言ってやがる」

不敵に笑うトラファルガーの佇まいに隙は無い。とても『医者』とは思えない凶悪さだ。
……とはいえ、一度口にした言葉を翻すタイプには見えないし、いいでしょ。念のためこのサークルからは出ておかないと気味悪いけど。

「浮遊(レビテーション)」

馬車1つくらいなら楽に運搬できる風系初歩呪文で、近くに三階建ての屋根に乗る。上から狙い撃ちする方が労力は少なくて済むし、効率が良いからだ。それに。

「一応言っとくけど!」

離れたトラファルガーに向かって、あたしは念のため警告する。

「自分で巻き込まれないように注意してよね!」

意図して狙ったりはしないけど、余波の影響を受けるか否かまではあたしの知ったことではない。この時点で、あの海賊共のせいにしてある程度デカイ術もぶっ放す気満々のあたしである。
そんなあたしの方針を知ってか知らずか、トラファルガーは特に文句も言わず、自分の帽子を押さえて小さく肩をすくめたのだった。

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