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▼ 不意

『お母さんそっくりね』というのは、故郷(くに)の母ちゃんの知り合いがあたしと初めて会ったときに大概口にする科白だ。正直聞き飽きているレベルであるが、あたし自身、父ちゃんと母ちゃんなら母ちゃんの方に似てる自覚はあるので否定はしない。
が、その科白をあたしに吐いた連中の多くは、暫くするとこういう風に言う。

『意外とお父さん似なのね』

まあ、母ちゃんの知り合いは殆どが父ちゃんの知り合いでもあるので、別段おかしいセリフではない。要するに、あたしの性格はベースが母ちゃん、隠し味レベルで父ちゃんらしい。『選択肢のチョイスがリナ(母ちゃん)より優しい』から、だそうだ。褒められてるんだか中途半端だと貶されてるのか知らんが、まあ要するに、若かりし日の母ちゃんに比べると、あたしという人間はそこそこに『優しい』んだそうだ。
確かに、あたしは多少イラッと来たからと言う理由で、街中で広範囲系の魔術ぶっ放したりはしない。母ちゃんは未だにブチ切れるとところ構わず最強の黒魔術をぶちかましたりする、なかなかにはっちゃけた人なのだが、それに比べると確かにあたしは大人しいかも知れない。

「逃げてんじゃねーぞゴルァ!!」
「金目のモン置いていきやがれッッ!」

が、しかし忘れないで頂きたいのは、あたしはあくまでも『ベース:母ちゃん』のスペックだということである。幾ら父ちゃん成分が混ざってても、10人いたら9.8人は『母ちゃん似』と太鼓判捺してくるのである。
つまり何が言いたいかというと、

「地霊咆雷陣(アーク・ブラス)」
「アギャァァアアア!!」

所詮『母ちゃんそっくり』なあたしは、悪人(この場合は海賊であるが)相手に不意打ちなんてせこい真似くらい平気でしてしまうのである。まる。
ちなみに今のは広範囲系の地属性精霊魔法。正直威力は下の上レベルだが、このアホみたいに広い大通り一杯に広がっていた海賊全員痺れさせるくらいは出来る。

「し、シビ、しびびれ……」

恐らく誰に何やられたかもわかっちゃいないだろうが、説明してやる義理もないので放置する。ちろっと横目でゲス野郎もといトラファルガーを観察すると、奴は驚きもせず、興味深そうにプスプス煙を上げている海賊共を見ていた。

「電気系の能力か?」

思うんだが、『変な能力』イコール『悪魔の実』と率直に結びつけすぎるのはどうかと思う。そもそもあたしはカナヅチではない。そしてこの世界に実在しているという『悪魔の実』とやらにお目にかかったこともないのだ。
……能力者には何度かあるけども、あれはよろしくない。どうせなら実の方が欲しい。売ればすっごい高値で売れるらしいし。

「……さあね」

何はともあれ、こいつにも教えてやる気はないのでぼやかしておく。そもそもアタシの中で今現在、こいつは紛れもない『敵』なのだ。

「オイ! そこのテメェら何みてやがる!!」
「さてはテメェ等の仕業だなァ!!?」

いつの間にか町中の人間は皆避難してしまったらしく、海賊達は奴らから少し離れたところに佇んでいたあたし達を見つけてしまったらしい。
しかしこの町、「お尋ね者か?」なんて平然としてた癖に、この逃げ足の早さ。てっきりウォーターセブンみたいに戦える人間が多いのかと思ってたんだけども、要するに「略奪しに来る海賊が多いから逃げるのには慣れている」ってだけだったようだ。明らかに貴重品だけはきっちり持って行っているらしく、「何もねぇじゃんかよ!」と逆ギレしている科白が聞こえたのはついさっきだ。

「見つかったな、大厄災屋」
「だからそれ止めてっつってるでしょ。そっちこそ『死の外科医』なんて物騒な異名のくせに」

片眉上げたあたしに、にんまり笑うばかりのトラファルガー。この海賊をぶっ飛ばすのは良いとして、こっちに気を取られてこいつに後ろからざっくりやられるのは避けたい。

「やっちまえ!!」

とか言ってるうちに、武器を構えた海賊共が一斉に斬りかかってきた。……取り敢えず迎え撃とうとあたしが口の中で『力ある言葉』を唱えていると、トラファルガーは不意に2歩3歩と大股で歩いて来た。かと思えば、奴は当たり前のようにあたしの横に並んで、刀を持つ手を変えた。

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