血潮より濃く、光より目映き | ナノ


▼ 枠外

「一人でこの島にいるってことは、『麦わらの一味』に加入したわけじゃねェのか」
「誘われはしたわね。断ったけど」

つーかあんな船長と船員と一緒にいたら正直身がもたない。あたしも破天荒な自覚はあるが、正直その上を余裕で行ってると思う。まあ各自割と楽しい奴らだったし、特にナミとは金銭感覚が凄い合うから、名残惜しいっちゃ名残惜しかったけども。
15段も重なるパンケーキで乾いた口の中を、水でうるおす。しっとりしててもパンケーキはパンケーキだ。食べてると唾液がどんどんなくなってしまった。

「それに、向いてないのよ団体行動。誰かの命令を聞くのも嫌だし、命令するのも面倒」
「そんな理由で一人なのか?」
「そうよ」
「過去に誰ともつるんだことは無ェってことか」
「完全にってことはないわね。仲良くなった海賊に次の島まで乗せてもらったりしたもの。けど苦手なモンは変わらなかった」
「こっから先は心許ねェだろう」
「別に? 大体どうにかなるわよ。そもそもこの先に行こうって決めたわけでもないわ」

しかしこの男、なかなかによく喋る。此処まで根掘り葉掘りして何が知りたいのかわからんけど、まあ差し障りのないことばっかりなので別に構わない。奢ってもらってるしね(ここ重要)。

「海賊なのにか」
「海賊を名乗った覚えもないわ。好き勝手やったらお尋ね者にされただけよ」

フォークを持っていない左手をぱたぱたと振った。
兎にも角にもあたしは、船長にも一般船員にも、とてもじゃないが適応できない。

「『麦わら』に不満があったわけじゃない。誰かに従うのも、従わせるのも苦手なの」

そりゃあたしだって、絶対誰にも従わないわけじゃない。必要があれば誰かに指示を出すこともあるし、必要ならリーダーに服従することもする。けど、どうにも海賊とか海軍とか、そういう組織の中に自分が入るっていうのが、何ともいえない拒否反応を起こさせるのだ。
自分でも、何をそんなに嫌がっているのか分からないけど、とにかく。嫌なのはわかるのに、何がどうして嫌なのかわからないから、正直言って直しようもないと思う。

「とんだじゃじゃ馬だ」
「うるさい」

ほっとけっての。……まあ否定はしないけど。
最後にのこった抹茶アイスをぱくりと食べ終える。口の端についた抹茶を舐めて、紙ナプキンで口を吹く。ふう、満足。
デキャンタで来たワインを、グラスになみなみ注いで一気に飲む。急性アルコール中毒? 良い子は真似しないでね。いやホントに。

「良い女が勿体ねェな」

んぐっっっ。

「……何それ、口説いてるつもり?」

思わずたっっぷり間を空けてしまった。表情に出さなかった(多分)のは我ながら偉いと思う。ていうか脈絡なさすぎでしょ。ワイン噴くとこだったわ!

「海賊ってのは御宝には目が無ェもんなんだよ」
「あっそ。……褒めてもらって光栄だけど、さっきまであたしが言ってたこと聞いてた?」
「言うこと聞かねェ名馬の方が調教師がいがあるだろ」
「……ドS発言御馳走様。残念だけどあたし、Mじゃないのよね」
「隠れた性癖ってのはわかんねェぞ? それに」

うわあ、なんか凄くイイ笑顔。そんでもって凄く嫌な予感。

「俺はどっちかっつーと貧乳派だ」
「死ね!!」

思わず抜刀しなかったあたしの理性を本当に誰か褒めてほしい。寧ろ表彰くらいしてほしい。剣ではなく、母ちゃんに倣って懐に忍ばせているトイレスリッパ(勿論本来の用途としては1回も使ったことはない。あしからず!)を素早く取り出したあたしは、そのまま渾身の力でもってトラファルガー改めクソ野郎のドタマをはたく。
スパァァァンッッ! と小気味のいい音を立てた途端、「船長!」「キャプテン流石に今のは最低!」と、心配3割、呆れ・諌め6割、あたしへの同情1割の声をかける奴のクルー達。
脇に置いてあった伝票を、「確かに胸無ェけど!」と失敬極まりないことを叫んだキャスケット野郎のドタマに叩きつけて悶絶させることに成功したあたしは、そのまま荷物片手に席を立つ。

「次そのツラあたしに見せてみなさい! 消し炭か氷漬けか好きな方選ばせてあげるわ!」

つーかあたしは一応Bくらいはある!
断じて! そこまで!! 貧乳じゃ!!! ない!!!!

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