サインを下さい!





 いつものように、浜辺でタイヤを使って特訓をしていたら、背後に人の気配を感じ振り向くとフィディオがニッコリと笑って立っていた。

「フィディオ!どうしたんだ?」

「うん!まもるに届けものがあって来たんだ」

「届けもの?」

 届けものと言ってもフィディオは何も持っておらず、手ぶらにしか見えなくて、首を傾げるとフッと含み笑いされ、ますますフィディオの意図が分からず、悩んでしまった。

「そんなに悩む事じゃないよ。俺の届けもの、受け取ってくれるよね!」

「受け取ってって‥‥‥何を?」

 フィディオが自分の胸に手をあて、一歩近づいたかと思ったら目の前に真っ直ぐ見つめる青い瞳があった。
 僅かにフィディオの息が頬に掛かり、思わず目を瞑り身を竦めてしまった。
 すると、耳元で優しい囁き声が聞こえた。

「俺の気持ちをまもるに届けに来たんだ」

「‥‥‥フィディオの気持ちって‥‥‥そんな事、言われても俺‥‥どうしたらいいのか‥‥‥」

「まもるに受け取ってほしいんだ!‥‥‥ダメ‥‥かな?」

「‥‥‥」

 黙り込んでしまった俺は、そっと目を開けフィディオの顔を窺うと悲しそうな瞳でジッと俺の顔を見つめていた。
 そんな悲しい顔をされると、ますますどうしていいのか分からなくなってしまった。

「‥‥ダメ‥だったら‥‥‥どうするんだ?」

「‥‥んー‥‥受け取り拒否は考えてなかったから、絶対に受け取ってもらうよ!」

「はっ?‥‥‥」

 だったら、ダメかな?なんて聞くなよっと思ってしまったけど、口には出さずに

「強引だな‥‥」

 と、呟くとそれが聞こえていたのか、『そうだよ!』って言いながら押し倒して来て、びっくりした俺はそのまま後ろに倒れてしまった。

「ーっつ‥‥」

 砂浜でも、いきなり後ろに倒れると当然、痛いもので‥‥‥でも、フィディオはそんな事お構い無しって感じで俺の上に跨がって頬を撫でながら

「受け取りのサインが欲しいんだけど」

「えっ?‥‥サインって‥‥‥」

 ニコッと笑ったフィディオは頬を撫でながら、その唇を落とした。
 慣れているのか、キスが上手くて思わず素直に受けてしまった。

「‥んっ‥‥ん‥」

 フィディオは自然とこぼれる声に満足したのか、下唇を軽く吸い離れた。
 顔を赤くして、ボーッとしている俺の唇を人差し指で押さえ

「サインはまもるからもらわないといけないよね」

「オレ‥‥から‥‥?」

「うん!」

 微笑むフィディオの顔を両手で包み、その澄んだ瞳を見つめ問いかけた。

「俺のこと、好きなの?」

「うん」

 俺はフィディオの首に腕を回し自分の方に引き寄せ、サインのキスをした‥‥‥―


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