夜の浜辺で……

 マモルに『俺がいつも練習してる浜辺に夜9時に来てほしいんだ。待ってるから』と、一方的に約束をさせられてしまった。
 どうして、夜なんだろうと不思議に思いつつ、マモルの待っている浜辺へ向かった。
 夜の海は真っ暗で、何も見えなく細波の音だけが絶え間なく聞こえていた。


 「マモル!……マモルー!」


 辺りを見回しても見当たらないので、まだ来ていないのだろう。
 しばらくその場に佇んで暗い海を眺めていると、段々とこの静寂な闇の中に引き込まれそうな恐怖を感じ始め、そうなると気持ちは心細くなり、その場に踞ってしまった。
 顔を両膝に乗せ両腕で覆い隠すようにして、座っていると遠くの方から足音が聞こえた。
 それは次第に近付いて自分の足下で止まり、俺は『マモル?』と名を呼び、顔を上げると心配そうな顔をして俺を見下ろすマモルがいた。


 「フィディオ、どうしたんだ?しんどいのか?」


 俺の前に同じようにしゃがみ、頬に手を添えて優しく撫でてくれた。
 その優しい手が心地よくて、さっきまでの心細さが無くなり安堵感を感じ、フッと微笑んでその手に自分の手を重ねた。


 「大丈夫、ただこの場所……夜に一人で居るにはちょっと……」

 「怖かった?」

 「……う…ん」


 何だか怖がっていたなんて恥ずかしい・・・笑われるんじゃないかと、チラリとマモルを見ると、申し訳なさそうな顔で俺をじっと見つめていた。


 「そっか……ごめんな、一人で待たせちゃって」


 マモルにそんなに心配されると、嬉しいような恥ずかしいような複雑な感じで『大丈夫だから』と、言うのが精一杯だった。
 マモルはその一言に安心したのか『うん』と言って、俺の横に片足を立てて座った。

 さっきまで、この暗い海が怖かったのに、マモルが横に居てくれるだけで、こんなにも安心が出来るなんて不思議だ。
 しばらく二人で、黙って波の音を聞きながら星空を眺めていた。



 「キレイな星空だね」

 「あぁ、フィディオに見せたかったんだ」

 「そうなんだ」


 マモルと二人きりで星空を眺めることが、なんだか嬉しくて自然と顔が綻んでしまう。


 「フィディオ」


 不意に呼ばれ、横を向くと目の前にマモルの顔があって、そして唇にマモルの唇が重ねられた。
 唇が重ねられたまま、後ろへゆっくりと押し倒され、重ねた唇がより深く甘いものへと変わっていった。


 「……んっ…んんっ……」


 段々と苦しくなって声を洩らしてしまうとマモルは離れてくれて、濡れた俺の唇を親指で拭うと、いつもの笑顔で笑った。
 その笑顔に釣られて俺も笑ってしまう……


 「マモルのその笑顔が好きなんだ!」

 「あぁ、俺もフィディオのこと……ホントに好きだぜ」


 そう言うと、マモルは俺に覆い被さるように抱き締める。
 自分の体に掛かるマモルの重みは不思議と心地良いもので、首筋に顔を埋めるマモルの頭を手で軽く押さえると、それに応えるかのように首筋にキスをしてくれた。


 「……あっ…」


 思わず、声が洩れてしまい恥ずかしくて自分の鼓動が高鳴るのが分かった。
 それに気づいたのか、マモルはズルズルと体を下にずらして、耳を俺の胸に当てた。


 「フィディオの心臓がドキドキしてる」


 そう言われると益々、鼓動が早くなって体が熱い……
 でも、ずっとこうしていたいという思いもあって、マモルの頭を包み込む様に抱きしめた。


 「……フィディオ


 小さく呟く声が聞こえた。


 「マモル……好きだよ」


 そして、俺たちはお互いの体の熱が冷めるまで、抱き合っていた……


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