cook love for you
(同棲パロ)



がっしゃん!大きな音が部屋に響いた。それを聞いた愁生は弾かれたようにソファーから立ち上がると急いでキッチンへ向かった。
そこにはボウルや小麦粉が散乱していた。床にはしゃがみこんだ焔椎真がおり、愁生はさあっと血の気が引くのが分かった。

「焔椎真!」
「…愁生」
「大丈夫か?怪我は?包丁は使ってないな」

床に膝をつき矢継ぎ早に問うと、焔椎真は小さく頷いた。良かった。肩を撫で下ろす愁生をよそに、焔椎真は愁生の視線から逃げるように俯いた。

焔椎真一人で料理をしないということが、同棲する上での二人の約束ごとだった。焔椎真は料理ができない。それも破滅的に。昔焔椎真が包丁で盛大に手を切って以来、普段は焔椎真の意見を尊重する愁生もこれだけは絶対に譲らなかった。

焔椎真はなかなか顔を上げようとしない。本来なら約束を破ることを嫌う子だ。頭ごなしに叱るのは最善ではないと、愁生は焔椎真の髪を優しく撫でた。

「…焔椎真」
「…」
「何を作りたいんだ?」
「…パンケーキ」
「テレビで見たのか?」
「…お、おいしそうだったから、」
「うん」
「作ってあげようと、思って」
「…」
「愁生に…」

そこまで言うと、焔椎真は肩を震わせてぽろぽろと泣き出した。俺が怒っていると思ったんだろうか。ああばかな子だ。なんて愛おしい。
涙で濡れた頬に手を添えて目の前の愛らしい唇にキスを落とす。それを何度も繰り返しながら震える肩を抱いてやると、焔椎真はようやく泣き止んだ。

「焔椎真。ありがとう。嬉しいよ」
「…ま、まだ作ってないぞ」
「じゃあ一緒に作ろう。俺も焔椎真に作ってあげたいんだ」

な?と柔らかな頬に口づける。焔椎真は再び目を潤ませると愁生の胸にすりよった。
本当はパンケーキより焔椎真を食べてしまいたかったが、それはまた後にしようと愁生はもう一度焔椎真にキスをした。





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