シュガーキャンディーの人たち



やれやれと九十九はため息をついた。目の前で仁王立ちする美青年はその綺麗な顔を歪ませこちらを睨み付けている。しかし九十九は怯まない。なぜなら愁生が見つめているのは正確には自分の背に引っ付く美少女だと知っていたからだ。

「焔椎真。いい加減にしろ。九十九が困ってるだろ」
「九十九はばか愁生と違って心が広いんだよ!ばか、ばか愁生!」

確かにぎゅうぎゅう抱きつかれるのは若干苦しかったが、迷惑だとは思わなかった。(…それよりも背中に当たっている柔らかいものを何とかしてほしい、かな)
九十九がこっそりそう心の中で呟いた瞬間、愁生の眉間の皺が一本増えた。気がした。九十九は慌てて目を逸らす。

「…今日は何が原因なの」
「知らない。ばか愁生が勝手に怒り出したんだ」
「いや、あれはお前が悪い」

愁生が滅多なことで怒らないことを九十九は知っていた。その唯一の例外が焔椎真関連であることも。本人は無自覚だが、焔椎真はとても魅力的な女の子だった。校内で彼女に恋する男子学生はごまんといるし、登下校中に怪しげな男性に騙され拐われそうになったこともある。
だから愁生はいつもそんな輩から焔椎真を守るため目を光らせているのだが、当の本人が無自覚なため二人の意見が衝突することが稀にあった。今回もきっとそれだろう。九十九はそのばっちりを受けていたのだ。
お菓子を取りにいきたいなあと熱くなっている二人をよそに九十九が考えていると、そこに救世主が現れた。

「あれ、何してるの?三人とも」
「あ、十瑚ちゃ」
「十瑚!」

あっさり九十九から離れた焔椎真は、十瑚の元に駆け寄ると今度は彼女に抱きついた。愁生は肩を撫で下ろした。その顔はひどく羨ましそうだったが。

「愁生がひどいんだ。何もしてないのに怒るんだ」
「あら。それはひどいわね」
「そうだろ!ひどいだろ!今日は愁生とゲームしたりお風呂に入ったり、ぎゅうってしてもらったり、愁生としたいことたくさんあったのに…」

ついに焔椎真は十瑚の腕の中で泣き出した。愁生を見れば案の定ひどく狼狽していたので、やっぱり焔椎真といるときの愁生は表情豊かだなあと、九十九は思った。
そして結局は何だかんだで焔椎真に甘い愁生が先に折れるのだった。

「…焔椎真」
「…」
「俺が悪かった。ごめんな。だからこっちにおいで」
「…もう怒ってない?」
「ああ怒ってないよ。おいで焔椎真」
「…」

愁生が両手を広げると、十瑚に涙を拭われた焔椎真はおずおずと彼に近寄っていった。愁生は我慢しきれず焔椎真の腰に腕を回し抱きよせる。焔椎真がそばにいるのに触れられないなんて、ただの拷問だった。



「相変わらずラブラブねーあの二人」
「ね」

やれやれと九十九はため息をついた。はやくお菓子が食べたい。そんなことを考えていたら突然目の前にカラフルな飴が現れた。

「はい九十九」
「え」

にこりと微笑みながら飴を差し出してくる十瑚。(ああなんて愛しいのだろう!)九十九もまた我慢しきれず、彼女を抱きしめた。



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