「君はね、本来なら七歳のときに死ぬはずだったんだ」

男の話はこうだ。人間には「寿命」というものが定められている。それは人間の定義するものとは若干異なり、老衰死や病死、また事故死などの外部的な要因によるものも寿命に入るらしい。その寿命を管理しているのが、死神。
管理と言っても、寿命が来た人間は何もせずとも勝手に死んでいくので、それを確認し、報告するのが彼らの役目だそうだ。

「寿命はその人が生まれたときから決まっているんだ。その長短は人それぞれ違うんだけど、前世で悪いことをしたとか、そういうのは関係ない。完全なランダム。君は本来なら七歳の夏に交通事故で亡くなるはずだった」
「…」

わけがわからない。それが焔椎真の純粋な気持ちだった。信じるとか信じないとか、それ以前の問題だ。
そんな焔椎真を知ってか知らずか、“死神”は話を続ける。イケメンじゃなかったら殴っていたところだと、どうでもいいことを考えた。

「あくまで本来なら、ね。現に君は今こうして生きているわけだし…」
「…なんで?」
「君が寿命を終えようとする度に、俺がその邪魔をしたから」

そっと“死神”が焔椎真の薄い肩に触れた。その瞬間再度香った花の匂いに焔椎真はふと気付く。この匂い、知っている気がする。

「結構大変なんだよ。運命はいつだって君を死なせようとしてくる」
「…んで」
「ん?」
「なんで、そこまでしてあんたは私を、…生かそうとするの?」

これ以上踏み込んではいけないと、頭のどこかで警鐘が鳴っていた。しかし混乱した焔椎真はそれに気付かない。
“死神”はそんな彼女を引き寄せると、彼女の耳元に唇を寄せた。

「焔椎真が好きだから」

パーン

銃声が響いた。焔椎真が振り返ると壁に銃弾のめり込んだ跡があった。“死神”に引き寄せられなければ確実に焔椎真に当たっていただろう。焔椎真は血の気が引くのがわかった。

「…」
「待てこらあああ!!」

そんな焔椎真の背後をヤクザと警察官が通り抜けていく。呆然とする焔椎真の肩に手を置いて、“死神”は尚も続ける。

「これからはもっと大変だよ」
「…え」
「死神を見てしまったからね。みた者はと寿命とは関係なく一週間以内に必ず死ぬと言われている」
「い、っしゅ」
「焔椎真」

わけがわからない。そう焔椎真は叫びたかった。叫びたかったのに、真っ直ぐ見つめてくる“死神”の目をただ見つめ返すことしかできなかった。
十年前に死ぬはずだった自分。今生きているのは彼のおかげということなのだろうか。いや、彼のせい?

「大丈夫、俺が守るから」
「…」
「俺と生きてくれる?」

ああ神様、私の人生なのに私に選択権はないのですか!





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