「…なあ愁生」
「ん?」
「愁生はさ…好きな奴とか…いんの?」
「突然なんだよ」
「………別に」

ぷいっとそっぽを向き手元にあるクッキーを頬張る焔椎真。そんな彼女の姿を愁生は微笑ましく見つめていた。昼休み、二人はいつも人気のない裏庭のベンチに座って昼食を済ます。焔椎真が食べているクッキーは愁生の手作りだった。
ちらりと焔椎真は顔を上げる。彼女の視線に気付いた愁生は「なに?」と首を傾げた。さらりと揺れるハニーブラウンのロングヘアー。瞬きをする度に音が鳴りそうなほど長い睫毛。肌は透き通るほど白くて、胸元の赤いネクタイがよく映えていた。綺麗だなあと思う。幼い頃から二人はずっと一緒にいたが、焔椎真は今でも愁生を見る度そんな感想を抱くのだった。
美人で頭も良い愁生は焔椎真の自慢だった。しかし、それと同時に焔椎真は不安でもあった。いつか愁生に彼氏ができたら、今のように授業以外の時間ずっと一緒に過ごすことはできなくなるのだろう。この美味しい美味しいクッキーも彼氏のために作られるのだと思うと、切なくなる。愁生の一番が自分ではなくなることが、焔椎真は嫌だった。
不安げに自分を見つめる焔椎真を安心させるように、愁生は笑いかけた。

「うーん…別にいないよ」
「ほ、本当?」
「ああ。そういうのより、私は焔椎真と一緒にいるほうがずっと楽しいから」

途端にぱあっと明るくなる焔椎真の表情。愁生が自分の手の中からこちらも手作りのマドレーヌを差し出すと、焔椎真は嬉しそうに口を開けた。可愛い。愁生は焔椎真が好きだった。それは紛れもない恋愛感情であったが、愁生はそれを変だとは思わなかったし、否定しようとも思わなかった。自分にとって焔椎真を愛することはとても自然なことだったからだ。可愛い可愛い私の焔椎真。

「うまい!」
「よかった」
「昨日作ってくれたアップルパイも美味しかったし、やっぱり愁生は料理上手だな。はー幸せ…」
「大袈裟だなあ…あ、焔椎真食べかすついてる」
「どこ?」
「ここ」

ぺろりと愁生は焔椎真の口の端を舐めた。「くすぐったい」と笑う焔椎真に愁生は目を細める。ああもう、本当に可愛い。
顔を合わせて笑い合う。お互いの存在だけで成り立つ世界はマシュマロみたいに柔らかく、マカロンみたいに甘かった。そこに不満など何もなかった。

「焔椎真、帰りはどこに寄る?」
「スタバっ行きたい」
「ダークモカチップ?」
「それも飲みたいけど…クリームブリュレフラペチーノも美味しそうだったし…」
「じゃあ二つ頼んで半分こしようか」
「うん!」

ゆらゆら。風に合わせて二人のスカートが揺れる。これが彼女たちの日常。



mellow girlsがした世界



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