※ちょっといかがわしいの注意!





マイハニー、マイダーリン





「あら、碓氷さんの奥さん」
「あ、こんにちは」

よく晴れた日曜日の昼。郵便物を取りにマンションのエントランスに向かった焔椎真は、そこで同じ階に住む年配の女性とすれ違った。会話が好きな気さくな女性で、マンションに入居したての頃からよく声をかけてくれる人だった。立ったまま少し雑談をした後、買い物に行くのだとエントランスを出ていく彼女を見送った。
焔椎真も郵便受けに向かおうとしたが、先程の彼女の言葉が頭の中でリフレインされ、思わず足を止めた。碓氷さんの奥さん。私のこと、だよな。なんだか胸の辺りがむずむずしてきたが、焔椎真は誤魔化すように大股で歩き出した。

郵便物を片手にエレベーターに乗り込み自分の部屋へと戻ると、愁生がキッチンで昼食の準備をしていた。

「焔椎真おかえり」
「…ただいま」
「もうすぐできるからな」

そう言って料理を再開した愁生の背を焔椎真は見つめる。広い、男の人の背だった。焔椎真はまた胸がざわざわして、堪らず愁生の背中にすり寄った。

「焔椎真?」
「…」
「どうした?」

愁生の問いには答えず、焔椎真は一度ぎゅうと愁生に抱きつく力を強めると「何でもない」と呟いて離れていった。そのままリビングに向かう彼女の姿に愁生は少し思慮したが、今問い詰めてもまともな答えは返ってこないだろうと、昼食の準備に戻った。
しばらくして出来上がったパスタは今日も焔椎真好みのゆで加減だった。





「ん…」
「んぅ、はあ」

夜のベッドで唇を重ねる。焔椎真が着ていた服は早々に愁生の手によって脱がされ、ベッドの下に乱雑に落ちていた。焔椎真も愁生の服を脱がそうと手を動かすが、甘い愛撫と激しい口付けに翻弄されるばかりだった。

「ねえ焔椎真」
「…はあ、…ん?」
「昼間、何かあった?」
「ん、な、んで…」
「外から帰ってきたとき、複雑な顔してたから」
「…」
「なんていうか…嬉しそうなんだけど、ちょっと困ってるようにも見えたから」

ああ愁生は何でもお見通しなのだ。そのあまりに的を得た言葉に焔椎真は内心苦笑する。それから見透かすようにじっと見下ろしてくる端正な顔から目を逸らしながら、彼の濡れた唇を人差し指でつうと撫でた。

「…昼にね」
「うん」
「エントランスで同じ階の人に会って」
「502の人?」
「うん」
「何か話したの?」
「…奥さんて」
「ん?」
「碓氷さんの奥さん…て、言われた」
「…」
「それで、なんか、こう…幸せだなあって…でも、わ、私でいいのかなって。私ばっかり幸せで、愁生は違ったらって思ったら…」
「焔椎真…」
「だから、…んぅ」

愁生は焔椎真の言葉を遮るように彼女の口内に舌を入れた。愁生の突然の行動に焔椎真は驚いたが、口内を舐め回す彼の温かな舌が気持ちよくて彼の首に腕を回した。

「本当に…お前は」
「はあ…、しゅうせ」
「どこまで俺を魅了すれば気が済むの」
「?」

頬を上気させながら首を傾げる焔椎真を無視して彼女の身体に舌を這わせる。その舌が柔らかな胸にたどり着くと、焔椎真はびくびくと身体を震わせた。

「あ、愁生…待って…」
「待たない」
「ふぁ、あ」
「幸せに決まってるだろ」

ぴたりと、快感に身を捩っていた焔椎真の動きが止まった。愁生はそんな彼女の頬に手を添え言葉を紡ぐ。

「焔椎真が俺の、俺だけのものになって、幸せに思わないはずがないだろ」

彼のあまりに真摯な瞳と言葉に、焔椎真は胸が苦しくなった。キスがしたいと考えていると望み通りに甘い口付けが降ってきて、堪らず愁生の頭を掻き抱く。どうして彼は自分が欲しがるものがいつも分かるのだろう。

「んん、っはあ、ねえ…愁生」
「なあに」
「はやく、さわって…」

愁生は耳を疑った。滅多にない焔椎真からのおねだりに、愁生は普段の彼からは不釣り合いなほど雑な動作でシャツを脱ぎ捨てると、焔椎真の膝に手をかけた。

「ひぅ、あ、しゅ、せ」
「俺の奥さんは本当に…可愛いな」
「しゅうせ、しゅうせい…」

ああ今夜は優しくできないかもしれないと、腕の中で必死に自分を呼ぶ焔椎真を抱きしめながら思った。




「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -