わたしのは王子さま



「焔椎真」

耳に心地好く響く凛とした声に、帰りのHRが終わり賑やかだった教室が一瞬にして静まり返った。焔椎真は慌てて鞄を掴むと入口のドアに寄りかかる愁生の元へ駆け寄った。

「し、愁生」
「焔椎真。そんな急がなくていいのに」
「いや、いいから。帰ろうぜ」
「ああ。…焔椎真」

焔椎真は早くその場を後にしたかった。クラスメイトの視線が痛い。そりゃそうだ。愁生はかっこいい。他校にも愁生のファンクラブが存在するといつだったか聞いたことがある。
そんな愁生が放課後に焔椎真を迎えにこの教室やってくるのは別段珍しいことではない。しかし焔椎真はいつも気が気ではなかった。愁生に向けられた女子生徒の熱い視線。なんといっても愁生はかっこいいのだ。

「なんだ、愁生」
「いや、うん」
「?」

愁生が口ごもるなんて珍しい。焔椎真が首を傾げると愁生はくすりと笑った。その綺麗な微笑みに、どきんと胸が高鳴った。

「スカート。だなと思って」
「?おう」
「可愛い」
「、かっ」
「制服以外ではスカートはかないだろう、お前。似合うのに」
「な、わ、悪いか」
「悪くないさ。どんな焔椎真も可愛い」
「…」
「さ、帰るか」

時が止まった。教室内の時が止まった。遠くで何人か女子生徒の悲鳴が聞こえたが、愁生は気にも止めず焔椎真の手を握って歩き出だした。焔椎真は空いている方の手で顔を隠す。熱いったらない。
廊下を歩く間も周囲からの視線が気になった。ちらりと愁生を見上げる。愁生は何を勘違いしたのか、「荷物持つよ。貸して」なんて王子様のようなことを言うものだから、焔椎真はもうどうでもよくなった。



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