death or love?
(高校生と、 )



ヒュー

ガッシャーン

「……………」
「す、すいませーん!手がすべって…大丈夫ですか?!」
「…はい、なんとか」

頭上から落ちてきた鉢。粉々に砕けたそれを見下ろす焔椎真ははは、と頬を引きつらせた。あと一歩足を進めていたら確実に脳天に直撃していただろう。焔椎真は身震いをすると恐る恐る散乱した土や破片を跨いだ。

焔椎真は常に死と隣り合わせに生きてきた。しかし、別に不治の病に侵されているとか、戦場で生きているとかいうわけではない。(いっそその方が周りも同情してくれただろうに。)ただ、よく死にかけた。七歳の頃からだろうか。頭上に鉄格子が落ちてきたり、ホームに落ちて電車に轢かれそうになったり、コンビニ強盗に刺されそうになったり。車に轢かれかけるなんてことはもはや日常茶飯事であった。しかし不思議なことに、それらの危険は全て紙一重で回避されてきた。おかげで焔椎真は17歳の今でも生きているし、大きな怪我を負ったこともなかった。焔椎真はそれを奇跡だと思っているが、言い換えれば死にかけたことに対する証拠がないため、誰にも同情されず、あまつさえ「考えすぎだ」なんて注意までされる始末であった。考えすぎで毎日死にそうになるものか!

「でも今日はまだ朝にバスジャックに遭ったのとさっき降ってきた鉢くらいしか危ない目に遭ってないな…今日はいい日だ」

もはや「いい日」の基準が麻痺していることに気付かない焔椎真は鼻歌まじりに駅に向かって歩いていた。ふと、後ろから騒音が聞こえてきた。地面を擦るタイヤの音と、悲鳴。ため息を吐きながら焔椎真は振り返る。どうせブレーキの壊れた車だろう。

「…てタンクローリーかよおおおお!!」

これは、無理だ!死ぬ!
巨大なタンクローリーは真っ直ぐ自分に向かって突進してくる。あまりの恐怖に足は動かず、焔椎真はぎゅっと目を閉じた。毎日死にかけるからといって死が怖くないはずがなかった。
ああついに死ぬのか…父さん母さんごめんなさい…!

しかし、いつまで経っても焔椎真の体に衝撃や痛みは襲って来なかった。それどころかほのかに香る花の匂い。何の花だろう。死ぬ瞬間とはこんなに穏やかなのだろうか。おそるおそる焔椎真が目を開けると、自分を守るように抱き留める全身黒ずくめの男が視界に映った。
焔椎真の視線に気付いた男は、にこりと微笑むと強張った彼女の頬を優しく撫でた。

「大丈夫?立てる?」
「……こ」
「ん?」
「腰が…」
「抜けちゃったの?」

目の前でくすくすと笑う男。自分と同い年くらいだろうか。ハニーブラウンの髪を揺らし黒いコートに身を包んだその男は、この世のものとは思えないほど綺麗な顔立ちをしていた。暫し男に見惚れていた焔椎真だったが、はっと今の状況を思い出し慌てて辺りを見回した。

「どうしたの?」
「あ、あの…」
「…ああ。あれのこと?」

男が指差す方向に目をやると、反対側の道路で先ほどのタンクローリーが大破していた。え?あれ?さっきは確かに自分目掛けて突っ込んできたのに、あれ?
混乱している焔椎真を他所に、立ち上がった男は申し訳なさそうに肩を落とした。

「ごめんね…またやっちゃった」
「…え」
「本当はだめなんだけど。こうやって姿を現すのもね。でも今回ばかりはきつかったから…だめだな…焔椎真を見ていると」
「な、なんで、名前…」

ざわざわと事故のあった反対車線に人が集まってきた。大半はただの野次馬のようだ。しかし焔椎真はそれどころではなかった。男が手を差し伸べてきたので、焔椎真はその手を取って立ち上がる。頬を撫でられたときも感じたことだが、男の手は驚くほど冷たかった。

「俺は死神なんだ」
「………………は?」
「あれ、日本ではそう呼ぶって聞いたんだけど…違った?」
「え、いや、…え?」
「君、これまで何度か死にかけただろう?」
「…」

死神だなんて、そんな現実離れしたこと言い出して新手の詐欺かと思ったが、最後の男の問いかけに焔椎真は固まった。誰も知らない、誰も信じてくれない自分のこと。何故初対面の男が知っているのか。





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