スキスキキス!
title by 須臾様
「つがるつがる、だいすき」
「おれもすきだよ、サイケ」
ぼくはつがるがすき。いざやくんもしずちゃんもお風呂にうかぶアヒルさんもふわふわのホットケーキもだいすきだけど、いちばんすきなのはつがるなの。
だからつがるにいつもすきって言うんだけど、つがるはよくわかってないみたい。ぼくがいざやくんよりしずちゃんよりお風呂にうかぶアヒルさんよりふわふわのホットケーキより、つがるがだーいすきだってこと。なんでうまく伝わらないのかなあ。
「いざやくんいざやくん。どうしたらいいのかなあ」
「そうだねえ……じゃあキスしてみたら?」 「き?」
「うん、チュー」
「ちゅー?」
初めて耳にする単語に首を傾げるサイケ。「そうか知らないか」と苦笑しサイケの頭をよしよしと撫でるのは臨也だった。津軽は隣の寝室で昼寝をしており、また静雄はキッチンで夕食の準備をしていた。今リビングにいるのはサイケと臨也だけだった。
「じゃあ今から俺がお手本するから、ちゃんと見ててね」
「うん、ありがとういざやくん!」
臨也はもう一度サイケの頭を撫でるとソファーから立ち上がり、静雄のいるキッチンへと消えた。サイケはとことこと臨也の後を追い、こっそりキッチンを覗く。そこは甘ったるい空気に包まれていたが、サイケは臨也の言いつけ通り真剣な眼差しで二人を観察した。
…なんか、おなかのあたりが重たい。そう思い、津軽はゆっくり目を開けた。そこには自分の体に覆い被さっているサイケがおり、「おはようつがる」とにっこり笑ったので、津軽も「おはよう」と返した。
「つがる、つがる。起きた?」
「ん」
「じゃあここ座って」
促されるまま、津軽はベッドから体を起こしてサイケと向かい合った。なんだろうと津軽は目を擦りながら首を傾げる。目の前のサイケも首を傾げたかと思ったら、次の瞬間津軽の視界はサイケでいっぱいになった。
「ん、む」
どうやら自分の口とサイケの口が触れているようだった。津軽はぱちぱちと瞬きをする。これは、なんだろう。わからないけど、心がぎゅーとなって、頭の中までサイケでいっぱいになった。それはサイケも同じだった。
「…ぷは」
「はあ、」
「…サイケ、これなあに?」
「ちゅーだよ」
「ちゅう」
「あのね、これはね、トクベツなんだって。いちばんすきな人としかしちゃいけないんだって」
「いちばん、?」
「うん。いちばんじゃなきゃだめなの。だから世界中でたった一人としかしちゃだめなの。だからぼくはつがるとしかしないんだよ」
津軽の額と自分のそれを合わせながらサイケが言う。臨也のようにうまく説明できないけれど、少しでも津軽に伝わるようにと祈りながら。津軽はそんなサイケを見つめたまま黙り込む。それは新しいことを学んだときの津軽の癖だった。サイケは急かすことなく津軽の反応を待つ。
「…その、ちゅうっていうのは、おれ以外にはしないのか」
「しないよ」
「いざやにも?しずおにも?」
「いざやくんにもしずちゃんにもしないよ。二人ともだいすきだけど、ぼくがいちばんだいすきなのはつがるだから」
サイケが言葉を紡ぐうちに、津軽の頬はりんごのように赤く染まっていった。初めて見た津軽の反応にサイケは目を丸くする。津軽は小さな両手で自分の口を覆うと、眉を寄せてサイケを見つめた。
「サイケ、サイケ」
「なあに、つがる」
「サイケ…うれしい、おれ」
恥ずかしそうに、しかし嬉しそうに津軽が微笑んだ。ああようやく伝わった!歓喜のあまりサイケは津軽にとびついた。二人でベッドに沈む。ふかふかのベッドは二人のお気に入りだった。こんな幸せ、あるだろうか。サイケは力いっぱい津軽を抱きしめた。
「つがる、だいすき」
「おれも、おれもサイケがすき。いちばんすき」
「本当?」
「うん」
「じゃあちゅーしてくれる?」
「うん、ちゅう」
一生懸命顔を寄せてくる津軽が可愛くて可愛くて、サイケもまた顔を寄せた。津軽の唇はほのかに甘く、あっという間にサイケを虜にさせた。
そんな二人をそっと見つめる影が二つ。
「…」
「…」
「…シズちゃん、何で涙ぐんでるの?」
「あいつら、こうやって大きくなってくんだなあ…」
「寂しいんだ」
「うるせー…………ぐす」
「俺がいるよシズちゃん」
「ん…臨也…」
「ずーっと一緒にいるから大丈夫だよ。ね?」
「…ん」
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