放課後と純情 (中学生パロ)
焔椎真と付き合い始めて一ヶ月。愁生はある決意を持って放課後の廊下を歩いていた。昇降口に着くと、そこには玄関にある鏡の前で自分の髪を弄る美少女がおり、愁生は足早に彼女に近づいた。
「焔椎真」
「、愁生」
「ごめん、遅くなって」
愁生に気付いた焔椎真はぱっと鏡から体を離した。恥ずかしそうに手を後ろに隠す愛らしい姿に、愁生は心奪われた。
玄関の扉を押し、焔椎真に先に通るよう促す。焔椎真は愁生を見上げると「ありがとう」と微笑んだ。
授業が終わってから大分時間が経っていたことと、運動部が活動しているであろうグラウンドはここから多少距離があることから、二人の周りには誰もいなかった。周囲から冷やかされることを焔椎真は嫌がるので、愁生は安心して彼女の隣を歩くことができた。
「委員会、結構時間かかったな」
「ああちょっと揉めて…。随分待たせただろう?」
「んーん、大丈夫」
焔椎真が首を振ると、ふわりと甘い香りがした。それが彼女の綺麗な金髪から香ったのだと気付いた愁生は、人知れず頬を赤く染めた。
そうだ、今日こそは。愁生は焔椎真の前に立った。焔椎真は首を傾げる。愁生は意を決して口を開いた。
「ほ、焔椎真」
「なに?」
「…手を」
「て?」
「…手を、繋いでもいいか?」
焔椎真と付き合い始めて一ヶ月。愁生はまだ焔椎真に触れたことがなかった。突然の愁生からの申し出に、焔椎真はかあっと顔を赤くし、スカートの裾をぎゅうと握った。嫌なはずがなかった。自分だって愁生に触れたいし、触れてほしい。
愁生は静かに焔椎真の返答を待つ。心臓がばくばくと鳴っていた。頭の中は焔椎真でいっぱいだった。
「……いいよ」
「…焔椎真」
「私も、愁生と、手繋いだりとか、したいし。…それに…そういうの、聞かなくていい、私」
「…」
「愁生になら…何されても…」
予想もしていなかった焔椎真の言葉。ああ。愁生は目眩を覚えた。ああ今すぐ彼女を抱きしめたい。抱きしめて、甘い香りのする髪に顔を埋めたい。しかし愁生は何とかその衝動に堪える。焔椎真に触れたいというのはもちろん本心であるが、愁生は何よりも彼女を大切にしたかった。
愁生は震える手を伸ばし、焔椎真の白く細い手のひらに触れた。それは思っていたよりも柔らかく、滑らかだった。それから一等細い彼女の指に自分のそれを絡めると、ぴくんと焔椎真の肩が震えた。
「焔椎真…」
「…」
「家まで、このままでいい?」
「……だめ」
「なんで…?」
「だって…どきどきしすぎて、死んじゃうよ…愁生…」
困ったように眉を寄せ自分を見上げてくる焔椎真はまるで天使のように愛らしかった。もう、周囲に冷やかされたっていい。俺は焔椎真が好きだ!
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