「ねえ、しつちょー」 「何だ」 「しつちょーは鬼なんだよね?」 「無論だ。俺は西日本を統治していた鬼の末裔だが」 依頼人は朝から来ていない。天霧と不知火は有給を使って一泊二日の温泉に出かけている。すなわち、今日はうるさいバイトのなまえと風間の二人だけだった。なまえは夏休みとかで、宿題とゲームを持ち込んでお悩み相談室でゴロゴロしている真っ最中である。 「じゃあさ、これ飲んだら死ぬの?」 そういってなまえが差し出したのは鬼ころしであった。鬼ころしとは、全国を代表する日本酒の商品名である。 「ぐああああああ!!!」 風間の叫び声とともに一日は幕を開けた。 「あ、気がついた?」 「はっ…やめろ!そんな物騒なものをしまえ!」 しばらくして、風間は息を吹き返した。 「やっぱり鬼ころしって効くんだ…」 なまえはぶつぶつ言いながらも、せっかく持ってきた鬼ころしを鞄にしまった。意外と室長がビビリだということは胸の内にそっとしまっておくことにした。実は爆笑寸前だったのである。 「ところで室長、今日私がここに来た理由があるんだけど」 「何だ、まだ何かあるのか…!」 なまえの目が輝いている。嫌な予感がする。これはまた無茶なことを言ってくるに違いな…「私好きな人がいるからその人のこと調べて!!キラッ☆」 「何を戯言を言っている。帰れ」 キラッ☆とは何だ。大体何でそんなことを…そもそもこいつは前の以来の借金を返済するためにバイトをしているのではないか。意味が分からぬ。 「いいじゃんどうせ今日依頼来ないって」 「どうして分かる」 「だって今日の依頼全部断ったもん」 「貴様…!」 なまえは背後に感じる室長の怒りに、ちょっと寒気がした。案の定、頭の上に拳骨が振り下ろされた。 「痛ったいなあーもう!たんこぶできたらどうしてくれんの室長のハゲ!」 「俺は禿げてなどいない」 ぶつぶつ文句を言いながら二人は歩く。結局、今日は相談室を留守にして、なまえは風間をひっぱって、学校へ向かった。 「どうしてお前の学校に俺が…」 「だってその人は学校にいるんだもん。夏休みの間も学校にいるんだって」 「言葉も出ん…ばかばかしい」 大声で言い争いをしてしばらく経った頃、校門の前に二人は汗だくで立っていた。 「暑い」 「早く入ろ、もうね、まじでいけめそだから!室長早く!」 「ぐはっ…わかったからネクタイを掴むのはやめろ!」 なまえは風間の手を掴み、職員室へと向かった。グラウンドからは部活をしている生徒の声が聞こえる。 「失礼しまっす!土方せんせ!」 土方先生、だと?いやいや落ち着け、あの男であるはずがない。偶然だ。 「何だみょうじじゃねえか、どうしたんだ夏休みに」 「この人紹介します!私のバイト先の室長です」 「室長?」 「…久しぶりだな、土方」 「あっ、お前は…!何しに来やがったこんな場所に!」 「知り合いなの!?室長、土方先生知ってたの!?」 取り残されたのはなまえのほうである。自分が想いを寄せている相手が風間と知り合いだったとは。むしろコレはラッキー!?などと考えていた。だが現実はそうも甘くない。 「室長、後は頼んだよ!私沖田先生んとこに質問行ってくるから!」 「おい待てなまえ!」 なまえは風間に期待した。自分が居ないほうが土方の情報を聞きだせるかと思い、あえてその場から席を外したのだが、それは逆効果であった。 「…お前は教師になったのか。フッ、似合わぬ」 「お前こそお悩み相談室室長なんざ、笑わせてくれるぜ」 既に2人の間に火花が飛び散っていた。 「大体お悩み相談室で何を解決してくれんだ?俺みてえに朝から晩まで働いてる人間に時間をくれるのか?」 「貴様にはこの仕事の辛さはわかるまい。それから相談料をよこせ。話はそこからだ」 その時、見えない何かが二人の中で同時にぷつりと切れた。 「…久々に剣で勝負と行こうじゃねえか」 「ふん、望むところだ。腕は鈍っておらぬからな」 2人はお互い鬼のような顔をしながら道場へ向かった。 「沖田せんせー」 「あ、みょうじさんじゃん。どうしたの夏休みなのに」 「宿題解けなかったから聞きに来た!真面目でしょ」 「君の質問長いからやだー。それより土方先生知らない?」 なまえが沖田を訪ねると、沖田はアイスを片手にノートを持っていた。ノートには発句集と書かれていたが、何も見なかったことにした。 「土方先生なら私のバイト先の室長と話してるけど」 沖田は室長、という人物に思い当たる節があった。あの近所の看板に載ってる室長か…。っていうかこの子、どこでバイトしてんの。よりによって風間…。 「僕これから剣道部の監督しなきゃいけないんだけどさあ…面倒だし暑いし土方さんに押し付けたかったのに」 「道場かあ、久々に剣握ってみようかな」 「えっ、君剣道できるの?」 「うん、今やってないけど。昔は全国大会出たし!キラッ☆」 「じゃあ僕が君に稽古つけてあげるよ。ボコボコに!キラッ☆」 なまえは若干、沖田の笑顔に怖いものを感じたが今更断れないので、諦めて道場へ向かうことにした。沖田の方をちらりと見やると、にっこり笑っているがどうしても鬼にしかみえない。 二人が道場の近くについた頃、入口にがやがやと人だかりが出来ていた。 「あれ、なんだろう。君、ちょっとごめん…」 「総司!」 なまえと沖田が声のする方向を振り返ると、斎藤が立っていた。斎藤はなまえの数学担当で、剣道部の顧問でもある。 「あ、斎藤せんせ」 「はじめくん、どしたの」 「土方先生が…風間と戦っている!」 「「えっ」」 /シュガーで固まる |