「わああああやめてよおおおお!!!」
「ふん、お前が言った事だ」
「そんな…室長に好きだとか言った覚えないもん…」
すっかり全快したなまえは、熱で正気を失っている間に、風間に言質を取られてしまった。身に覚えのない発言をしたと聞かされ、気が動転するばかりである。
「おんぶしてもらったのは覚えてるんだけど…」
「当然だ」
「あとは何も覚えてないなぁ…」
「その頭が哀れに思えてくるな」
「あっ、でも寝てるとき…夢に室長出てきた」
「ほう。どんな夢だ」
「えっ…と…」
夢でキスされたなんて言えない。思わずなまえは真っ赤になって黙り込んだ。それを察した天霧がすかさず答える。
「貴方が寝ている間、風間が貴方に口付けしたのは紛れもない現実ですよ」
「なっ、己れ天霧!!隠れて居たのか!!」
「えっ…?」
「俺も見た」
「ええええええええうをををををををを!!!」
ヤケにリアルだとおもったら夢じゃなかったんだ…!不知火に留目を刺されキャパシティオーバーとなったなまえと、ばつが悪そうに頭をかく風間。何ともシュールな光景であった。天霧と不知火は笑いを必死に堪えた。
「ま、いいんじゃねえの」
「よくないよ!酷いよ寝てる時に乙女の唇奪うなんて…!私の青春返してよー!!!」
「そんなに風間に口付けされたのが嫌なのですか」
「………」
風間はぷいと窓の外を見て、なまえから目を反らした。どうして黙り込むの…いつもみたいに減らず口でも叩いてくれたらよかったのに、となまえは思った。
「嫌、じゃなく、て…どうせなら…起きてるときが、よかっただけ」
「「「!」」」
「初、だったのに…レモン味なのか甘い味なのか知りたかったよ…」
そう言った刹那、風間の手がなまえの頬を捉え、そのまま二人はキスをした。なまえはただ目を大きく開けて、唖然とする事しかできなかった。風間がなまえの唇を噛む。そしてそのまま熱だけが残り、ゆっくりと離れた。
「これで満足か」
「〜〜〜〜っ!!」
「ふん」
「もう!!!2度目じゃ意味ないのに!!」
天霧と不知火を余所に、ぺろりと舌を出した室長になまえはすごい勢いで抱き付いて、風間はそのまま椅子ごとひっくり返って床に頭をぶつけた。ゴスッと鈍い音が響く。



「ごめん」
「許さん」
「悪気は無かったよ」
「五月蝿い」
病院帰りの二人は、先程から同じ会話を繰り返していた。風間は後ろ頭にたん瘤を作り、機嫌が悪いことこの上無かった。
「ね、室長」
「五月蝿い」
「どうして私が熱出したとき迎えに来てくれたの」
「気まぐれだ」
「…ふうん。私、また相談室で働いてもいい?」
「愚か者。お前はまだ依頼料金に見合う働きをしていない。働いてもいい、ではなくむしろ働け」
「じゃあ、またいつかおんぶしてよ」
「断る」
「何で!?」
「腰と肩がやられるからな。お前の体重が重すぎるのが悪い」
「酷い」
なまえはしばらく立ち止まって、少し離れた所を進む風間の後ろ姿に向かって走り出す。そのまま背中に飛び乗った。
「ぐっ…!重すぎる…」
「へへ」
今度は転ばず、室長はなまえの体を受け止めた。夕焼けが二人の瞳に綺麗に映る。なまえは、やっぱり晴れはいいなぁと思った。でも雨が降らないと虹は見えない。だからたまには雨も悪くない。



「みょうじ、もう風邪はいいのか」
「土方先生!」
「その様子じゃ全快だな」
元気になったなまえが学校へ行くと、廊下で土方とばったり会った。
「いろいろご迷惑おかけしました。室長が迎えにきてくれて相談室で休んだ後、ちゃんと家に帰れました」
「そうか、よかったな」
「おい」
後ろからいつもの声がして、びっくりして振り返る。そこには風間が手に何かを持って立っていた。
「室長!何でいるの?」
「忘れ物をわざわざ届けに来てやった。感謝しろ」
風間はなまえにファイルを手渡し、土方を睨み付けて言った。
「なまえに余計なことを吹き込むなよ」
そうして、室長はすたすたと来た道を戻って行った。
「あっ室長、待って!先生、失礼します!」
慌ただしく去っていく二人を見送り、やれやれと苦笑して、土方はその場を後にした。
「わざわざありがとう」
「たまたまこの近くで依頼があっただけだ」
「ふうん?」
「嘘ではないぞ。何なら天霧にでも聞け」
「わかったわかった」
二人が騒がしくやいやい言い合うのを、他の教師達は遠くから眺めていた。
「風間…何か変わったな」
「そうかな。相変わらず五月蝿そうだけど」
「ま、みょうじが居れば大丈夫だろ!よーし今日は飲みに行くか!」
「イエーイ新八っつぁんの奢りー!!」
「新八、平助。今日は職員会議だ」
「ちぇー!」





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詠理