「1、2、3、4」
「5、6、7、8」
体育の時間には、なまえは立つのもしんどくなっていた。ここ最近は睡眠不足だったし、疲れが祟ったのだろう。体が熱い。なまえは遂にバカでも風邪をひける…!などとポジティブな考えで気を紛らわせていたが、そろそろ限界が来ている。真っ赤な顔で準備体操をする姿に体育教師原田が気づいた。
「みょうじ、ちょっと」
「はい」
「お前ひょっとして…熱あるんじゃねぇか?」
原田はなまえの額に手を翳すと、やっぱりなと眉を下げて笑った。
「保健室行くか?」
「…山南先生怖いからやです」
「じゃあ座って休んどけ。これ以上動かねぇ方がいいぞ。今日はバレーだしな」
きらりとなまえの目が光る。原田は言わなくていいことを言ってしまったと少し後悔した。
「!じゃあ休めない。授業受けます!」
そうして体育館には女子生徒1人の雄叫びと、ボールが地面に叩きつけられる音が響くこととなった。原田はそれを聞いて、苦笑することしか出来なかった。
「大人しくしとけって言ったのに…」



その後、やっと国語の授業で土方先生に会える…!といつもならハアハアしているはずのなまえは、今は別の意味でハアハア言いながら瀕死の状態で教室に向かっていた。友達が皆「やっぱり早退したら?」と口々に言うのを振りほどき、階段を登る。
「授業休んでも土方先生の所に質問行けばいいだけじゃない」
「そうそう、そしたら二人っきりじゃん」
「いや!私は…授業を受ける…!」
「半端ない無意味なこの執念…」
そうして階段を登りきった所に、授業の準備を持った土方が立っていた。
「みょうじ」
「土方せんせー!」
「お前、熱があるんだろう。原田から聞いた」
「でっ、でも私元気です!」
「馬鹿野郎。他の奴に移ったら事だろうが。さっさと保健室行くぞ」
「む……はぁい」
「悪いが他の奴は自習しといてくれ」
土方先生には逆らえない。結局友達に見送られ、後を着いていく。廊下が雨のせいで濡れて、歩くたびにきゅっと音が鳴った。
「しかし馬鹿は風邪ひかねぇって言うのに。どうした?」
「ひどい!…昨日、帰りに雨に打たれたんです。多分それで…」
「お前昨日傘持ってなかったか?新しいって新八に自慢してたろ」
「うっ…」
相談室に置いて帰りました、と小さくなまえは呟いた。それから、もうバイトを辞めたのだとも言った。土方は笑って言った。
「まあ風間のする事なんざろくなもんじゃねえ。辞めて正解だろう」
「そ、そんなに…」
「あの男は昔から人の感情を逆なでするのには天下一だからな。関わらない方が身の為だ」
「……」
「どうせ依頼とか抜かして、金をぼったくってるだけだろう」
「それは違います!」
今回ばかりは土方先生にも同意は出来なかった。土方は、おずおずと喋りだすなまえを見やった。
「私…前に室長に助けてもらった事があるんですけど、その時、室長…汗だくになりながら走って私のとこに来てくれた。その後、一緒にハンカチ買いに行ってくれたし、汚れたハンカチも洗ってくれた。他にも、土方先生には迷惑掛けちゃったけど…学校に着いてきてくれた。偉そうだし文句は言うし、バカだし、鬼ハゲ大好き千鶴千鶴うるさいけど、」
「……」
「優しいし、カッコいいとこもあります。ほんの少し、だけだけど」
「……そうか」
はっと我に返って、なまえは土方を見上げた。土方は仕方ない、とでも言うように笑った。その表情に、なまえは先程までのことはあっさり忘れてきゅんとした。
「あ、でも余裕で土方先生の方がカッコいいです(はあと」
「フ、そりゃあどうも。まあ当然だがな」
こうして二人は笑いながら保健室を訪れた。
「誰もいない」
「とにかく、熱を計れ」
熱を計ると38℃を優に越えていた為、なまえは自宅に強制送還となった。
「親御さんに連絡してくるから待ってろ。しんどかったら寝とけ」
「はぁい」



「参ったな、出ねぇ」
生徒名簿を前に、どうしたものかと首を捻る。家に電話してもみょうじの親御さんと連絡が取れない。仕事先に掛けてみるか…。
「はい、もしもし」
「あ、こちら薄桜学園の土方と申します。実は…」
状況を説明すると、電話口からとんでもない返事が返ってきた。
「あの…間違えてませんか。うちはクラブです」
「は?」
「ちなみに娘はおりません。ホストばかりです」
「そっ、そりゃ失礼しました!」
みょうじ…名簿の電話番号書き間違えてやがる…。くそ…どうして俺が男だけのクラブに電話しなきゃならねえんだ…。仕方ねぇな。
「この際強行手段と行くか」
土方は学校の電話を仕舞い、携帯を取りだした。
「もしもし」
「はい、こちら風間お悩み相談室の天霧です」
「薄桜の土方だ。風間に繋いでくれ」