千に背中を押されて、私はついに決めた。土方先生に直接話して、見放さないでくださいとお願いしに行く!!

はずだったのに。やっぱり勇気を出せないで、空き教室にいる。あと5分したら国語教材室に行く。それをずっと繰り返して今に至る。やっぱり怖い。先生と話すのが。嫌われているのだと、正面から突きつけられるのが怖い。
「はあ……」
先生に勘当されたのを沖田先輩にも八つ当たりしちゃって。最低だなあ私。誰もいない予備教室で、1人、ごそごそと教卓の中に入った。ああ狭くて落ち着く…。
土方先生が私を見放してから、授業中の会話も呼び出しもなくなったとき、私はなんだか胸にぽっかり穴が空いたみたいだった。
いつもすごく嫌だった。みんなが休み時間に寛いでいるのに、私だけ職員室まで爆走。授業中も私だけ集中攻撃。学校行きたくないって何回も思ったけど。それでもたまに土方先生に誉められたら。嫌なことも全部全部、帳消しになっていくのが自分でも分かってた。
テストが悪くてこっそり泣いてたら、テスト直しに付き合ってくれた。良い点取れたら、油断するなよって、頭を叩かれた。痛かったけど、それでも……私は嬉しかった。
この教室で補習してもらって、テスト直しに付き合ってもらって、時に無駄話して笑って。記憶がぶわっと頭を巡る。
「大体、先生が私のこと好きとか、あり得ないし」
ずっと私は心のどこかで、自分は土方先生の特別なんだって思ってた。それが良いか悪いかは場合によって違ったけど……それでも土方先生に気をかけてもらってたことが、今思えばすごく嬉しい。

私は…土方先生のことが好きだったんだね。

何で私だけにだったのかはわからないし、もう今は見放されちゃったから、特別でも何でもないけど。
「…っえ、ぶえ…、ひっく」
教卓の足が体に当たって、じわりと冷たさが伝わる。涙は拭っても拭っても出てきてスカートに染みを作った。薄暗い教室に、窓から光が差す。
その後しばらく泣いたらすっきりした。学校にはこれからも通うんだし。うじうじしたって仕方ないよね。さあ、今日は平助ん家で徹夜で●ァイナルファンタジーでもして…「2年2組、みょうじ」
おかしいな。幻聴…「今すぐ土方の所までェ!!」
「はいいいいい!!!」
いきなりの放送に、教室から追い出されるように国語準備室に向かう。土方先生だ。呼び出された理由はわからない。正直、怖い。それでも、言いたいこと伝えなきゃ。


***



ドアを開けると、煙草をくわえた土方先生が仁王立ちしていた。ずっと目を反らしてて、久しぶりに見た紫の瞳。何だか安心して、どうしてだかわからないのに、泣きたくなる。それをぐっと我慢して部屋に入った。
「てめえ。遅刻やサボりを堂々とするとはずいぶん成長したな」
「ち、違うんです!あれにはいろいろとっ、」
「……総司から聞いた。誰に恥ずかしい死に方して欲しいって?」
てめぇ沖田コノヤロー結局バラしたのか!私の努力は何だったんだ…。にたりと笑う先生からなんか黒いものが出てる!ひたすら焦る私に土方先生は続けた。
「それから、誰が誰に勘当したって?」
はっと先生を見る。もう、さっきと違って笑っていなかった。紫色の目に、私だけが映る。
「俺がお前を見放すわけねえだろうが」
「……っ、」
唇を噛む。だって、そうでもしないと、
「馬鹿娘が勝手なこと言いやがって」
それから私はまた、授業が始まってたのに、そこでずっと泣いた。先生は何も言わなかった。授業があったのかも知れない。けど、ずっと私の傍にいた。ごめんなさい。そう言ってまた泣く私の頬に、先生はそっと触れた。大人の手だった。


***



「はい次」
「げえええもう無理」
「やかましい」
なぜだか私は反省文を書かされています。ちなみに5枚目なう。あんなに泣いたから許してくれるかと思ったのに、私が泣き止んだ瞬間、先生は私を椅子に座らせペンを握らせ、微笑んだ。
「今日は20枚だ」
書けるかい!
「鬼畜!冷血!ハゲ!」
「ああ?」
前の席に腰かけた先生が私の顎を掴む。必然的に先生と目が合う。
「お前、俺のことが好きなんじゃねぇのか」
「なっ……!」
意地の悪そうな顔で先生は笑う。ああ、いつもと同じだ。
「悪いけどな、こっちも教師だろうが生徒だろうが関係なく攻めさせて貰うことにした」
「へええ?」
顔が熱い。髪の毛燃えそう。攻めるって…!それじゃ、
「お前は俺のもんだからな」
嘘。信じられない。先生が私を?
やっぱり勝てない。先生は大人で、私は高校生で、子どもで。私はいとも簡単に先生に心臓を掴まれて、胸がぎゅうぎゅうなって。背中に回された腕がちょっと重くて、大きくて温かくて。
「わ、私だって先生が好き!!!」
負けじとそう叫んでみるけど、すぐに土方先生の唇で口を塞がれた。


壁を壊せ!


そういえばどうして、最近私と話してくれなかったんですか?と聞いても、先生はばつが悪そうに黙り込むだけだった。


土方エンディングへ!