「2年2組みょうじなまえ、減点5」 「違うんです私は先輩の巻き添えに合っただけなんです!!」 朝の校門の前。始業のチャイムは既に鳴り終わった。必死に弁解してみるけど、目の前の風紀委員には通じてない。くっ…! 「総司、お前もだ」 「やだなあはじめくん。僕は至っていつも通りだよ」 「それが問題だと言っている!あんたも総司と結託して、一体何を考えているのだ。お忙しい土方先生にご迷惑を(ry」 もう嫌ーーー!! 沖田先輩にひょんなことから告白(脅迫)されて無理やり付き合うことになって。何で私達は一緒に知らない先輩に叱られてるんだろう。ていうかこの風紀委員の先輩ヤバい。沖田先輩の知り合いなんだろうけど…関わっちゃいけない匂いがすっぞ!この人放っといたらきっといくらでも喋るよ! 「(おおおお沖田先輩!こうなったら必殺☆DOGEZAを繰り出しましょう!)」 「ぶっ、何それ!こんなのいつものことだし、もう行こう」 「あんた達!まだ話は終わっていない!」 掴まれた手を引き寄せられて。急に走り出す沖田先輩の後を追う。……風紀委員の先輩放置するの?これはヤバいんでない? 「土方先生にバレたら終わりだって!!」 「大丈夫だよ」 あんたは大丈夫でも私は大丈夫じゃねえんだよ!そもそも今日遅刻したのも、どっかの誰かが寝坊して待ち合わせに遅れてきたからじゃねえか!!そう言いたいのをぐっと堪えてこっそり涙と鼻水を拭う。結局遅刻して怒られるなら、沖田先輩と付き合わずに初めから先生に怒られとけばよかった。本日何回目かの後悔を胸に押し込んで、校舎に入る。そこで思い出したように沖田先輩が衝撃の事実をこぼした。 「あ、僕1限目土方さんだった」 「ちょおおおそれ完璧にヤバいじゃないですか!!」さっきの風紀委員の先輩、早速土方先生に言いつけるだろうな……。 「仕方ない、サボろうか。いやーいい気分だねー」 「そうですか?私は今絶賛死にたいです」 1限は永倉先生なんだよなぁ。私は授業受けたいし、今からでも遅くない…教室に… 「逃げても無駄だよ。こっちには君の土方さんへのメッセージがあるんだから」 「うっ」 ここで先輩が土方先生に告げ口したら、遅刻に加えてさらに怒られること間違いなしだ。うう…負けた。完全に脅されている。ふふんと笑った沖田先輩の黄緑色の瞳の奥は、相変わらず何を思ってるのか私にはわからなくて。溜め息しか出ない。ずっと思っていたことをぽつりと口にする。 「どうして…先輩は、私に付き合おうなんて言ったんですか」 「だって君かわいいじゃない。僕、君に惚れたって言ったでしょ」 「えっ」 あれ本気だったんだ。先輩、私のこと…そんな風に思ってたの?土方先生を陥れるためだけに私といるんだって、ずっと思ってた。 「びくびくしながら怯えた表情で、涙目で見上げられたら僕のものにしたくなっちゃった」 ……ん?あれ……何だこれ。もしかしてこの人、 「ほら、僕、Sなんだよね」 私の一瞬のときめき返せ!私、Mじゃないんだけど!そんな反論も受け入れてもらえそうにない。無人教室の隅っこで三角座りをしながら私は寝た。現実逃避企画。 *** 1限が終わったと同時に教室に駆け込む。授業をしていた永倉先生に謝ると、「なんだよ下痢か?」と先生は笑って許してくれて。先生がバカでよかった。 「なまえ?あんたどうしたのよ」 「千、平助!!」 それから席に着いて、昨日から朝までの一連の出来事を話すと、平助は顔面蒼白、千は無表情になった。クラスの皆も聞いていたのか、大丈夫か?なんて声を掛けてくれる人も出てきた。そりゃそうだよね…ありがたい。 「でも大丈夫じゃないよ…」 「確か土方先生の授業、昼休みの後だったな」 もう、諦めようかな。疲れたし。普通に怒られとけば反省文くらいで済むよね。 …正直、沖田先輩も何なの。あんな歪んでる人見たことない。一緒にいたら私ばっかり酷い目に合う。いいやもう、大人しく怒られよう。今までだって土方先生から逃げられなかったんだから、今日も逃げられるはずないじゃん。 「みんな、さよなら。これで全部、終われるから…」 「何だよいきなり。●色の欠片の主人公かよ」 「珠紀ちゃんね」 千も平助も私が非常時だというのに…。まあ私もだけど。昼休みに呼び出されて怒られるのがオチだ。どうせならそれまで楽しく過ごそう。 *** そうこうしていたら、昼休みが終わった。ドアががらりと開いて、一番会いたくない人が入ってくる。 「おい、席着け」 怖い……顔を伏せて、手をぎゅっと握る。足音が近づいてくる。絶対拳骨かチョップが頭に落ちる…! 「始めるぞ」 あ、あれ…? 「起立、…気を付け。礼」 「お願いします」 委員長が号令を掛けて、みんなが立ち上がって礼をする中、私は1人取り残された。慌てて立ち上がる。椅子がガタガタ鳴る音と、黙って出席簿を開く土方先生。いつもなら絶対、私がノートを書いてるかチェックしてくるし、2つ3つ何か文句も言うはずで。ましてや今日は遅刻したのに……。 平助も千も、おそらくクラス中の人が今、同じことを思っているはずだ。 何が起きた 見放されたのかも、そう思えば気が楽になるかな。変な汗が背を伝う。そういえば今日は、一度も呼び出しの放送が掛からなかった。 |