「総司てめえ!今日こそは許さねぇからな!!昼休み覚えとけよ!」
「あははは土方さん、走るのまた遅くなりました?」
あー、何で朝から走ってんだろう僕。あ、僕が土方さんのスマホに勝手に薄桜鬼のアプリをダウンロードしたからか。ていうかパスワード…hougyoku0505とか簡単すぎでしょ☆
でもさすがに、顔を見る度に追っかけられたり無駄に呼び出し食らって時間取られるの面倒なんだよね。土方さんは高2担当なのに高3の僕まで指導されて正直迷惑っていうか。何か土方さんの攻撃を避けられて、復讐できる方法がないだろうか。
「……弱みとか握れば」
「何の弱みだ」
ぽつりと放った一言に食い付いてきた声の主を見やる。一くん…もとい鬼の風紀委員長斎藤一だった。
「別に。ちょっと言ってみただけ」
「?まあ良い。ところで総司。あんた、また忙しい土方先生のお手を煩わせていただろう」
「んー?知らないよー」
ダン、と机を叩く音と共に、嘘をつくな。知らないではない!大体いつもあんたは…(ry と、終わりそうにない説教が聞こえてくる。
一くんが目を瞑って滔々と話続ける中、僕はそっと席を立った。


***



「どうしよっかな…教室に居ても捕まるし」
とりあえずダルいから午前中はサボるとして…昼休みには嫌でも土方さんは教室に来るはずだ。屋上も見つかる。
……木は森に隠せ。やっぱりここは普段行かない1年か2年の教室が良いかも知れない。そう思い階段を降りた。そのとき、聞き慣れた声で放送が掛かった。
「2年、みょうじなまえ。至急職員室土方まで」
「ぎゃああ!!!今日の一発目きたぁぁぁあ」
半泣きで廊下を爆走する女の子と、あれは平助くん…?二人とも慌てすぎて床にぶちまけてしまったノートを必死に拾っている。
「ああ死んだ!!呼び出されて2分以内に行かないとぶっ殺される!!」
「だめだ生きろなまえ!!!」
女の子の名前はみょうじなまえ、か。どうやらあの子は毎日のように土方さんに呼び出されているらしい。なるほどね。僕の居る階には聞こえないようになってるから今まで気付かなかったんだ。あの子、土方さんのお気に入りってことかな。ちょっと調べてみようっと。


***



明らかに疲れた表情で階段を上がってくるなまえちゃんを素早く捕まえて、近くの無人教室に引きずり込む。
「わっ!?ちょ、え!?」
「静かに」
口を手で塞ぐと、なまえちゃんは目を反らして大人しく黙り込んだ。ゆっくりと手を離す。
「僕、三年の沖田総司っていうんだ」
「そうですか」
普通こんなことされた女の子は皆僕にきゅんとするはずなんだけど……この子、まるで無関心。
「みょうじなまえちゃんだね」
「何で私の名前…」
「放送。聞いてたんだ」
ぱちくりと綺麗な目をした彼女が瞬きをした。その後、はああと完全に脱力した顔でため息をつく。あ、白目むいてる。ゆるいカールの髪の毛もちょっと跳ねていた。
「私に何か用ですか……ご覧の通り私はもうHPが限りなく0なんです」
「君さ。土方さんのお気に入りでしょ?」
急に白目がぎろりと元に戻る。ちょっと怖い……ゆっくりそう思う間もなく彼女は叫んだ。
「冗談止めてくださいバカヤロー!何がお気に入りですか!」
「え?何で僕怒られてんの」
「沖田先輩でしたね。私が毎日どんなひどい目に合ってるか知らないのによくお気に入りなんて言えますね!ハゲろ!!」
ハゲないよ。
「大体毎日毎日雑用やらされて私だけ居残りは当たり前、授業中も私だけ当てられまくりの叱られまくり、ひどいときなんか他の学年のこともやらされてしかも」
「ごめん僕が悪かった!だからとりあえず話聞いてよ」
「……何ですか」
多分土方さんの愛情表現が歪みすぎているだけで、やっぱりこの子は土方さんの特別なんだと確信した。僕はこほん、と咳払いをして仕切り直す。
「君、土方さん嫌い?」
「…今一番恥ずかしい死に方してほしいくらいにはムカついてますけど」
「ふーん?」
言質取った。
「今の、土方さんにバラしてもいい?」
胸ポケットに忍ばせていた携帯電話のボイスレコード機能を見せる。
……わ、今なら土方さんの気持ちがわかる。
この子、今めちゃくちゃかわいい。いじめられた後の表情が最高。まあ僕も比較的Sだし?
潤む上目遣いの瞳、形のいい唇。それを見つめる。半笑いで愕然とするなまえちゃんににっこり微笑んだ。途端にびくりと震える肩。それにそっと手を添える。
「もしかして…もっと土方さんからいじめられたいとか?」
「ははは…沖田先輩……何の冗談ですか…?」
「僕と付き合ってよ」
「何言って、」
「君に惚れちゃった」



僕のものにする


尚更、土方さんにあげるわけにいかないね。