「おはよう、なまえちゃん。待った?」
「ちょ、早くしろコラ!!遅刻すんだろがああぁあぁ」
「ははは、僕先輩なんだけど」
ただいま8時45分、ちなみに校門が閉まるのは50分。ゆったり歩く先輩の手を掴んで全力でダッシュ。コノヤロー!また失点か!
「また風紀委員のあの人にぶつぶつ言われるじゃないですか!」
「今日の当番はじめくんなの?仕方ないな…じゃあ塀を乗り越えて行こっか」
「まじでか」
そうして走った末、やっぱり間に合わなかった私たちだけど、今日もとても元気です。


***



「おはようございまーす…」
教室に入ると、土方先生がホームルームをしていた。あの件以来、先生は私を集中攻撃するのを止めた。今日もこっそり席に着いて、何も言われることなきを得る。私としては一件落着。だけどまだ沖田先輩の魔の手からは逃げられてない。それどころかますます酷く陰湿になっている。ていうかこれ、普通の彼氏と彼女のポジションじゃないでしょ。
「僕、なまえちゃんのお弁当食べたい」
「そうですか。だが断る」
大体、先輩が登下校もお弁当の時間もひどいときは休みの日までもまとわりついて来るから、周りからしたら私たちがただのバカップルだし。先輩は顔がいいから、私と居て何言われても平気だろうけど……未だに私は先輩といると身分差的なものを感じる。
「ほんとに冷たいなぁ。もうすぐ卒業なんだけど」
卒業。
「誰がです?」
「僕以外誰がいるのさ」
そっか……!
じゃあそろそろこの呪縛からも解き放たれ…「ま、僕すぐそこの大学だから」
「ええええ!!!」
すぐそこの大学って……あの有名一流大学かコノヤロー!私、冬休みも毎日のように先輩と過ごしてたよね。先輩は一体いつ勉強してたんだろ。
「何か問題でもある?」
私の頭をがっしりと掴んでニタァっと笑う沖田先輩はドS全開で満足そうだった。
ほんとに、どうしてこんな人好きになったんだろう。


***



「なまえちゃんはさ、寂しくないの」
「何で私が寂しいの」
「僕がいなくなって」
「でも大学すぐそこじゃないですか。どうせ私が来てって言わなくても来るでしょ」
歩きながら私が斜め上を見ると、拗ねたような先輩の顔。
「僕は寂しいんだけど。なまえちゃんにいつでも会えるわけじゃなくなるから」
そんなこと。
「僕の方から近付かなかったら…君は、来てくれないだろうし」
そんなことない……とは断言できない…。だってこの人サディストだから。危ない系だから!それでもふててしまった先輩を放置するわけにはいかない。
「行きますよ。大学」
ちらりと私の方を見た先輩の手を握る。先輩は信じられない、みたいな顔で私の目を覗きこんだ。
「…ほんとに?」
「私がいないと先輩はダメだから(人様に迷惑をかける的な意味で)」
「まあ、そうかもね」
ははっと笑って先輩が歩き出した後を追う。先輩が制服姿じゃなくなるだけで、私は今までと変わらなくて、今よりちょっと会える時間が減るだけ。だから。


***



「もしもし、なまえちゃん?」
「……何ですか今どこですか!!何で主役の先輩がいないんですか!!今日卒業式ですよ!!!」
「まあまあ。僕、予備教室にいるから」
ぶつりと電話が切れた。すでに卒業生は体育館に集まってるのに、先輩だけがいない。何これ。私に探しに行けってこと?
「もぉぉお!!あのドS!!」
とりあえずこっそり体育館から抜け出す。急いで階段を駆け上がる。足痛い。4階まで上がるのしんどい。普通、好きでもない人にここまで出来ないよ。
やっぱり私は。
「やっと来たね」
認めたくないけど先輩が好きなんだ。
「何、してるの」
予備教室のドアを開けて、息を切らしながら先輩に近づく。先輩の傍でカーテンが風に揺られてはためく。
「やっぱ卒業式とか面倒だよ」
「はぁあン!?」
「デート、行こっか」
あなたは今日で卒業だけど、私はこの学校にもう1年残るんですよ。と、喉まで出かかった。
「……じゃあ付き合ってあげますよ!!出席日数とかもうどうでもいいや!!!」
「ん、よろしく。じゃ行こ」
二人で飛び出た校庭はまだちょっと肌寒くて、でも陽が差しているから暖かい。まだ桜は咲いてないんだなあ。
「ところでなまえちゃん。僕が大学生になったらちゃんと毎日うちにご飯作りに来てよね」
「あの……私受験生…」
「大丈夫僕が勉強見てあげるから。あー、お腹空いたなー。なんか食べに行こう」
まだ10時だよバカヤロー!人の話を聞け!!!


サディスティック・ラブ


結局この先もずっと振り回されるのなんて明らか。どうせ逃げられないなら二人でどこまでも!


***end***

ご愛読ありがとうございました!

130716 詠理