「3年1組、みょうじなまえ。至急土方まで」 「ぎえええええみんな早くノート提出してぇええ!!」 「落ち着けってなまえ!!」 くっそぉぉお、あの鬼教師!高3になってもこれか!! 進級した私の担任は、やっぱり土方先生で、千も平助も同じクラスで。そして私は今年も国語係をやっている。忙しい毎日。何もかもが去年と同じだ。 でも2つだけ、変わったことがある。 1つは、沖田先輩が卒業したこと。あの人がいなくなったお陰で、事がややこしくならずに済んだ。でも先輩は卒業式の日、私にいろいろごめんねと謝った。雪でも降るんじゃないかと思ったな……。 「それでも、君に惚れてたのは本心だよ」 土方さんに渡すのは正直気分悪いけどね、とにやりと先輩は笑った。 「せ、先輩…あの…」 「ああ、他の人には言わないよ。その代わり連絡先教えてよ」 教師が生徒と想い合うなんて、社会的には認められてないことぐらい分かってる。しぶしぶメアドを教えると、最後に先輩は笑った。その表情はさっきより優しくて、まるでドSであることを感じさせなかった。 「たまにはメールしてよ」 そしてもう1つは、私と土方先生の関係が変わったこと。 *** 「し、つれー……しま、あす」 いつものようにぜえぜえと息を切らして国語準備室に入っていくと、先生は机に向かってプリントの採点をしていた。 「遅い」 「4階から1階までどんだけ頑張って走ったって3分はかかります!!」 相変わらずむちゃくちゃな要求はしてくるし、授業中の指名度もかなり上がって、もう精神的なダメージがきつい。ストレスでハゲそう。 「お前が俺に会いたいだろうと思ってわざわざ放送してやったんじゃねぇか」 いや、ドヤ顔いらないから。うざい。あとエレベーター使わせろ。 「バカですか先生!しかもさっき授業で会ったし!」 「おい、恋人に向かってその口の利き方は何だ」 先生が立ち上がって近づいてくる。思わず身構えるけど手遅れだった。顎を掴まれて口を塞がれる。熱が移り移され、力が抜けそうになる。 そして長い長いキスの後に、先生が近くで囁いた。 「まだ仕置きが足りねぇか……?」 ブフォォオオ近い近い!!息が首筋にかかってくすぐったい。解放してほしいのに、腰を引き寄せられて、動けない。顔がゆでダコのように熱い。もうだめだ!! 「ごっ、ごめんなさい!!好きです!!!」 「よし」 とりあえず好きって言っとけばどうにかなることも、最近学んだことの1つである。ああ、今日も世界は平和だ。 *** 「で、円満解決ってことね」 「あー、うん、円満なのかな?これは」 昼休み。千と平助と三人で駄弁る。去年から今年にかけて、かなり激動の時代を送った私は、最近のゆるい雰囲気をたまらなく素晴らしいものに感じる。 「いやー、しかし……土方先生がなまえを好きだったとはなー。全然気づかなかったぜ!」 「……気付いてないの、多分貴方となまえだけだったわよ」 「「えっ」」 千の言葉に波紋が広がる。じゃあ何なの、皆知ってたの? 「「何で!?」」 私と平助が声を揃えて千に問うと、呆れたように笑って彼女は言った。 「土方先生って、子どもみたい。好きな子を虐めたがる小学生っているじゃない。あれがもっとタチ悪くなった感じかしらね」 「……それただのドSじゃん……」 「止めてよ平助私だってあのドSの扱い方が未だにわからないんだから」 「とにかく、先生はわかりやすすぎよ。あとあんたたちは鈍すぎ」 そうなのかな。だって未だに、土方先生がどうして私を好いてくれてるのかさっぱりわからないけど。私より千の方がかわいいし性格もいいし。蓼食う虫もなんとやら、かなぁ。 *** 「先生」 「何だ」 「先生は、どうして私なんか、好きになってくれたの」 先生の家で静かな空間の中、私は聞いた。ソファーに三角座り、外はオレンジ色で、日が傾いていた。 「……お前は、目に見えないものを信じるか?」 先生はマグカップを机に置いて言った。 「目に、見えないもの?」 「縁や運命、それから……前世」 わからない。わからないけど、でも。 「先生と私に、そんな何かがあるんだとしたら。私はそれを信じたいです」 「きっと、そんな何かがあったんだろう。俺がお前に惹かれたのも、お前がそんな俺に応えたのも」 なんだかじわりと心が温かくなる。 「それなら」 先生は近づいて、私の髪を掬った。 「俺がお前を泣かせるのが好きなのも、また納得がいく」 ちょっと待って。それじゃドSに苛められる私が、まるで運命によってドMにされてるみたいじゃない。はたと見上げれば先生の大きな体。そして私はソファーに押し倒されている。 これは非常にまずい……! 「だだだだだめっ!ちょ、私まだ華の女子高生ッ!」 「関係ねぇ」 「そういうのは、大人になってからっ、」 さっきの心の温かさを返せ!!先生を突き飛ばしてそう言ってやりたいのに、声は先生の唇に吸い込まれて、手首は拘束されて。涙で視界が滲んで……ああ、落ちていく。 サディスティック・ラブ それでも拒めないのは、やっぱり運命なのでしょう。 ***end*** ご愛読ありがとうございました! 詠理 |