あれから、私とソウジはすれ違うことが多くなった。ていうか何でロボットと人間がすれ違うのか……さっぱりわからないんだけど。私は昼から講義の日でも居づらくて、大学へ逃げるように朝から家を出る。ていうか何で自分の家なのに私が遠慮しなきゃいけないのか……さっぱりわからないんだけど。
そして私が朝家を出るとき、ソウジは必ず寝てる。家に帰ると、ソウジは必ず寝てる。ていうかもう最近ずっと寝てるところしか見てない。ずっとログアウトなさってる。もはやこれはすれ違いとか以前に一方的に通信を断ち切られている。
「もしかして、壊れてる……?」
私の頭突きが原因なの?でもあっちのほうが遥かに固かったし。確かにあの後、私は頭にたんこぶができたけど、ソウジがケツアゴになってたりとかはしてなかった。
「ってロボットがケツアゴになるわけないだろ!!」
「何大きい声出してるのよ」
はっと気づく。いかんいかん。ここは大学のカフェテラス。優雅に時間を送る場所。
「最近ソウジさんとはどうなのよ?」
「ああ……いろいろあってこないだ私が頭突きしてから、ひたすら寝てるけど」
「あんたまさか」
「その"まさか"……かもしれない☆」
「あらあ……」
「何で千がそんながっかりしてんの」
もういいんだ!もともとは独り暮らしだったんだし。勝手に来たロボットが壊れたって誰も文句言わないでしょうよ。
それでもずっと1人だった家にソウジが来て、初めはうぜーなと思ってたけど、だんだん慣れてきた頃に、あんなことがあったから。あーあ、どうしよう。でも、ロボットに意志があるとはさすがに思えない。もしかしたら本当に壊れてるのかも知れない。
「今日起こしてみてだめだったら、明日工学部の人に持っていって見てもらいなさいよ」
「ええー!無理だよあんな大き…、」
しかし…待て待て待て。工学部……。はじめさんがいるじゃん!!!
「じゃっ、じゃあそうしよっかなあー」
「あんた分かりやすいわねえ」

△▼△


「ただいまー」
「おかえり」
「あ、ソウジ。久しぶりだね」
「……うん」
ソファーに腰かけるソウジはちょっと微笑んだ。よかった、ケツアゴになってない……じゃなくて、無表情じゃない。
「……ねえ」
「ん?」
「もし僕がロボットじゃないなら……君は僕を見てくれる?」
何言ってんだこいつ……もしかしてまだ恋愛機能発動してる?それかアゴ打たれて壊れたの?
「壊れてないし、今は恋愛モードじゃないよ」
「じゃ、じゃあ…どうしてそんなこと……」
「僕がロボットとして、君を見るのはこれが最後だ」
「は?」
「僕は今から自分で電源を切る。そうしたらもう、元には戻れない」
「ちょっと、ちょっと待ってソウジ!どうしていきなり?」
「……ロボットは恋愛対象外、でしょ」
そりゃまあ…そうだけど。
「、じゃあね」
「ま、待っ……」
音を立てて黄緑色の光が消えていく前の一瞬、ソウジが悲しい顔をしたのは、私の見間違いだったのかな。それは3秒間だったかもしれないし、1時間だったのかもしれない。ただ、私は立ち尽くすしかできなかった。
「そ、ソウジ!!!」
こここここういうとき!どうしたらいいんだっけ!?あっ、気絶した人を起こすときにほっぺた叩いてるよね?ソファーに座ったまま動かなくなったソウジを思わず叩く。
「っ、痛……」
やっぱり特別なもので出来ているのか、叩いてたらすぐに私の手は真っ赤になる。
「ハンマーあったっけ……いやだめだわ!壊れる…」
あっ、試しに水かけてみたら直るかも!倒れてる人に水かけて起こしたりするよね。震える手でカバンからペットボトルを取り出す。すぐさま、びちゃびちゃと床が濡れていくのにも構わず、ソウジの頭から水をかけた。
「!?」
わああああ煙出てきた!!しゅうう、と音がする。…ちょっと待て、確か携帯って水に濡らしたら壊れるよね。
逆に壊しちゃった……!!!私落ち着け!!!
「もう、どうしたらいいのかわからない……」
ソウジの呟いた言葉が頭に甦る。
"……ロボットは恋愛対象外、でしょ"
ぽたり、ぽたり。それじゃあ、私の目から出ている液体は何なのだろう。
私は悲しいのか。あんなポンコツロボット、自らシャットダウンしてくれてよかった、そう思うはず。
「どうして勝手に、電源切ったのよ」
いつの間にか1人だと広く感じるようになった部屋に、動かないソウジ。綺麗な顔。まるで本当に人が眠っているみたい。でもやっぱり冷たいままの肌が、私に、彼はロボットだと静かに告げる。またひとりぼっち。寂しい、と、私は久しぶりに思った。



/ロボットに水は厳禁です







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