「やっぱり好き……はじめ先輩」 どうやら情報通の千によると、あの蒼眼の貴公子の名前は斎藤一。工学部4年で3大美男子の1人。剣道部副主将。今は卒論を進めているらしい。好物は豆腐、現在彼女なし。 「いよっしゃあああ斎藤なまえか…悪くない…!」 「いいから早く支度しなよ」 「何ロボットの分際で寝癖つけてんのよ…ちょ、痛っ、ギブギブギブ!!!」 このロボット…!朝一番に勝手に人の腹肉を目一杯つまみやがって!赤くなったじゃんか…。 「君の好きな人、斎藤一って言うの」 「うん!」 ていうかこいつ…昨日の私の独り言、盗み聞きしてやがったな。 「で、それがどうかした?」 「……別に」 ソウジがぶつぶつ言ってるのを聞き流す。全く……このロボットは。椅子に座って頬杖をついたまま、彼は言った。 「昨日の夜から何も食べてないんでしょ」 「まーね」 「君は本当にバカだね」 すくっと立ち上がったソウジは、そのままキッチンへ向かった。そして冷蔵庫を漁る。え、ちょっとちょっと。卵?とか出してきてどうするんだろう。 「何してんの」 「見たらわかるでしょ。朝ごはんの用意」 「ソウジが食べるの?」 「僕はもう……ごほん、僕はロボットだから食べるわけないでしょ。君の食べる分だよ」 「作ってくれるの!?」 なんかもう、こいつは本当に人間なんじゃないのか。改めてキッチンにいるソウジの顔をまじまじと見た。そんなことをしていると、良いにおいが漂ってくる。 「オムレツ…!」 「出来たよ」 さすがロボット。作業がめっちゃ早い。 「おいしい!」 「当たり前でしょ」 「これから毎日料理してくれてもいいよ…痛っ!!」 「調子に乗らないでよね」 僕の仕事はあくまで君の孤独を紛らわすためであって、君の下僕じゃないんだから。ソウジはふん、と偉そうに言った。 そこで大切なことを思い出す。あれ、……たしか恋愛機能が搭載されてるんだよね。 「ね、ソウジの恋愛機能、使ったらどうなるの?」 「……は?」 「彼氏が彼女にオムレツ作るとか、十分あり得る話だと思うけどね」 わくわく!そしたら毎日ご飯作ってくれるんだろうか。それも悪くないなうへへ!掃除も洗濯もやらせたい。 「……発動、させたいの?」 「うんうん!」 「後悔しない?」 するわけないじゃーん!と私が立ち上がったのとほぼ同時。ソウジの腕が私を掴む。目が少しだけ、光を増した。 「……あれ?」 「なまえ」 ソウジが初めて私の名前を呼んだ。呆気に取られる私をソウジが引き寄せる。そのまま、彼は耳元で呟いた。 「好きだよ」 ぞくり、肌が粟立つ。恋愛機能って……こういうことなの? 「そ、ソウジ……」 「なまえはこういうのを望んでるんでしょ」 腰に手が回される。一歩後退りするたびに、また一歩ソウジが近づいてくる。 「わっ、」 気が付けば後ろにソファー。これはヤバい。目の前に立つソウジの考えてることなんか、私に分かるわけがなくて。ただどうしようどうしよう、と焦るしか出来ない。そっと彼の手が私の前髪を払う。人間そっくりなのに、その手は冷たくて。 「か、解除!解除ッ!」 「無理だよ、プログラムされてる」 「そんな、」 力が強くて押し退けることが出来ない。そして、あんなに豊かだったソウジの表情が、今はまるで無表情で。一体何が起きたんだかさっぱりわからない。 ぺろり、彼の舌が私の首筋を伝う。止めて、止めてほしい。意志がないロボットに襲われるなんて…あり得ない! それでも頭を巡るのは、ソウジが私を馬鹿にしたときの顔や、ソウジが私を馬鹿にしたときの顔や……ソウジ(ry 私……馬鹿にされてしかないじゃん……。 「……他のこと考えてる余裕あるんだ」 ソウジが無表情のまま、私の目を覗きこむ。怖い。しかも相手はロボット……いや、怯んじゃだめだ!咄嗟にソウジの顎に頭突きをお見舞いする。 「う、どりゃああああ!!!」 そして後ろに倒れたロボットが起き上がるまでの間。私はソファーを乗り越えて、後ろ側の地面に落りた。頭が激烈に割れそう……!でも、痛みに耐えながら素早く立ち上がる。 「ソウジ、元に戻ってよ!そんな顔っ、見たくない!!」 冷静に考えたら、ロボット相手に説得なんかしたって仕方ないんだけど、何故か逃げようとか、黙って見てようとは思わなかった。ソウジはしばらく、立ったまま動かなかった。だんだん、強かった目の光は元の姿に戻って。 「……ごめん」 彼は未だに無表情のままだったけど、確かに小さく呟いた。 「……私が悪かったよ。恋愛モードとか、しちゃったから」 「……やっぱり、ロボットじゃ恋愛は出来ないね」 「は?」 「、何でもない」 /時にはバグを起こします |