フラれた。またフラれた。 「うー、ひぃっく、気持ち、わる……」 ダメだ、飲みすぎ。吐きそう。無意識に、一番聞きたくない言葉が頭で再生される。 "お前との付き合い、想像してたのと違ったんだ" あの人は……一体私に何を期待してたんだろ。きっと私、かわいい女の子じゃなかったんだなあ……。また催してくる吐き気にイライラしながら、部屋の鍵を開ける。 ……私は本気で好きだったのに。 ばちん、叩くように電気を着けた。照らされる視界の端に映るものに、ふと気づく。 「…何、これ」 玄関には何かがあった。 ……段ボール、宅配便?管理人さんが置いといてくれたのかな。それにしては異様に大きい荷物。私の身長より大きいかも……。 「っ、今はそれどころじゃ……」 吐き気を我慢して、パンプスを脱いで、洗面所へ駆ける。胸から熱いものが一気にせり上がるのが分かった。 「は……、っう、」 弱いのに飲んでしまうのは、きっと私の心が耐えきれなかったから。雫がぼたぼた落ちる。汗なのか、涙なのか、涎なのか。……もう女子捨てたな。どこか冷静な頭の隅っこで、そんなことを考えた。またひとりぼっち、かあ。 「ほんっ…と、さび、しい……寂し、っ……」 部屋に虚しく響く私の呟き。鼻をぐしゅりとすする。 その瞬間だった。ぴこーん、無機質な音と共に、黄緑色の光が視界を占めていく。振り向くと、段ボールの隙間から光がもれていた。 「な、ななな……」 近くにあったタオルで顔を拭って、おそるおそる段ボールへ近づく。急いで伝票を探すけど、見当たらない。送り主も中身が何なのかもわからない。 「とりあえず…開けた方がいいの?」 勢いに任せて段ボールをむしる。爪のマニキュアが剥がれるのも無視して、バリバリとちぎっていく。 「ぎゃああああッ!!!」 何か出てきた!!これ……人!?目ぇ光ってますやん!!怖い、思わず上半身が後ろにのけ反った。体がガタガタ震えるのが自分でも分かる。ぎゅっと目を瞑った。 「……うるさいなあ、君」 「…しゃ、しゃべった!!」 ゆっくり目を開けて、声の主を確かめる。そこに立っていたのは、男の人(全裸)。 「ぎゃああああッ!!!」 「だから、うるさいって言ってるでしょ」 「誰!?」 手で男の人の一部を隠しながら、ゆっくりと近づく。 「あ、あれ……?」 よく見たら……ついてない。 「貴様……何奴!!!もしやオカマ…「僕はロボット」 ……? 騒がしかった空間に沈黙が満ちる。聞き間違い…? 「ロ、ボ…ット?」 「そう、ロボット」 「…そうですか。で、そのロボットさんが何で私の部屋にいるんで?」 確かに、よく、よーく見たらだけど、この人ロボットっぽいかも。でも肌の感じも、髪の毛も、眸も(光ってることを除けば)人間そっくり。よく出来てるなあ……。そんなことを思う私に、ロボットは言った。 「君、さっき寂しいって言ったでしょ」 「……そりゃあ、まあ」 「僕は対寂しがりやロボット。寂しいと思ってる人の元に仕える」 「はは、そうですか。じゃあ帰っていいよ。私もう寂しくないから」 私はな!!!フラれた夜は必ず、"ブラザースコンクリート"をプレイすることにしてんだよ!そんな時間をロボットごときに取られてはたまらん。明日も大学があるし。 「それは無理だよ」 「ハァン!?」 「君が一度僕を必要としたんだ。僕は壊れるまで君に仕える」 「……全裸でか」 困るよ……。いくら私自身がトリガーとは言え、こんな変なものうちに置けない。このマンション、ペット禁止だし。するとロボットが再度口を開く。 「とりあえず、何か服ないの」 「ないよ」 「前の男が置いていった服とか」 「ないわッ!!」 そんな軽々しく男を家に入れたりしない。あんな男、もう顔を思い出すのも嫌だ。大体、こいつもこいつだ。いらないこと思い出させやがって。腹が立つ。……そうだ。ロボットなら、電源切っちゃえばよくない?そんで明日の朝、粗大ごみかなんかに……「ちなみに僕に電源はないから」 「ちっ」 「目が必死に電源探してたから。あんまりふざけてると殺すよ」 お、おお……何だかオーラがマジだ…。相手は理性がないロボットだけに、何されるかわからない……! 「う……。……仕方ない…置いてあげるよ…」 「だから君にはその選択肢しかないんだってば」 「その代わり!!私の生活の邪魔はしないで」 「それはどうかな?」 こいつ……本当にロボットなの?意志があるんじゃないかっていうぐらいに上手く造られてる。表情にかなり人間味があって、今さらながらかなり怖い。 …でももういいや、疲れた。早くゲームして寝たい。 「……お風呂入ってこよ。あんたさ、」 「"あんた"じゃない。僕はソウジ」 名前あるんだ…いっちょ前に。 「……ソウジ。服は明日買ってくるからタオル巻いてリビングで過ごして」 ちょっと不満げなソウジを無視してさっさとタオルを渡し、お風呂に入った。涙のあとを擦りながら顔を洗う。ぶくぶく、湯船の泡は生まれては消えた。本当、どうしてこうなった。 風呂から上がると、私のベッドをソウジが占領していた。ロボットの癖に寝てやがる。 「コノヤロー…!」 /電池は食べられませんよ |