「下らない」 「あーー!もう!聞こえなかったじゃんか!!」 深夜。千から借りた恋愛映画をかじりつくように見ている私。そしてそんな私を冷ややかに見詰めるソウジ。ちなみに内容はマフィア同士の運命の恋。うふふ。 「大体さあ。確率的に考えて、自分の両親を殺したマフィアを好きになって、しかもブランデーに弾が当たって発火って状況が」 「うるせええええ!!!」 まだ最後まで見てないのに……あっさりネタバレされた。ていうかさソウジ、あなた主人公の女の子にぼこぼこにされた敵の中の1人に似てる。うるさいなあ似てないよ。いや似てる。ふん、貧乳が。黙れ、ついてないくせに。 「そんな映画より時代劇見てる方が1000倍マシ」 「聞こえないから黙ってて。見たくないなら見なきゃいいでしょ」 「僕、高性能だから見たくなくても見えちゃうし、聞きたくなくても聞こえちゃうんだよね」 「……知るか」 どんだけわがままなんだこのロボット。自分が恋愛物見たくないだけだろうに。 「そもそも人は誰かを好きになると、麻薬と同じ物質を自ら脳内に分泌するんだ。それで快感を得て、"恋愛"をしてる気がするだけだよ」 「……それこそが恋愛で、それで本望よ」 「運命だとか魔力だとか、所詮まやかしなんだよ。僕は何ら必要性を感じないね。"恋愛"はいくらでも科学的に説明がつく」 一刀両断された……。 「……そのまやかしを失っただけで、大ダメージを受ける人だっているんだよ」 「全く論理的じゃない」 「湯○先生か!」 こいつ……人を慰める機能は完全にぶっ壊れてるな。ほんと、ソウジの生みの親にあったら頬をビンタしてやりたい。 「恋愛は理屈じゃないよ。そのソウジの言う脳内物質?が何だか知らないけど。人はすれ違う人全員を好きになったりはしない。自分の選んだ、たった1人に恋をする。まあ……時に複数の相手を好きになることはあるにせよ、そんなのは例外」 「……ふん」 「たった1人、1人でいい。本気で恋愛ができる相手を、人は皆探して生きてるよ」 もういい。ロボットのこいつに何言ったって仕方ない。ああ、時間の無駄遣いだった。 「………」 △▼△ 今日の講義は朝から。超眠い。1限目をさらりと流して、千に叩き起こされた。 「あー、太陽が眩しすぎるわ」 「今日曇ってるじゃない。あんたコウモリ?」 「いやもう眠くて眠くて……」 あ、しまった。ボケてたから講義のセットを教室に忘れてきた…。 「ごめん千、先行ってて…忘れ物した」 「はいはい」 教室に戻ると次の授業があるのか、既に生徒がたくさんいた。私の座っていた席にも人が座ってる。その後ろ姿に恐る恐る話しかける。 「あ、あの…すみません、ちょっと忘れ物を」 「これか?」 「あ、ありが……」 振り替える顔にびっくりする。えっ、何この人、超イケメン……。ちょっと紫がかった髪の毛に、蒼い目。凛々しい顔立ち…! 「?俺の顔に何かついているか」 「…あ、あああ!いえ!何でもないですごめんなさい!!!」 「はじめくーん!」 はじめ。この人、はじめさんって言うの?はじめさんの後ろから、かわいい男の子が話しかけてくる。 「ごめんごめん、席取ってもらってわりぃな!」 「別に構わない」 「そこの人は?」 「あっ、私忘れ物取りに来ただけなんで!失礼します!」 急いで教室を走り抜ける。顔、赤くないかな。変な顔してなかったかな。 一目惚れ、しちゃった。 △▼△ はじめ、はじめ、はじめ。 「ねえ」 名字、何て言うんだろう……。ほんとに、すごい勢いで一目惚れしてしまった。生まれてから初の体験。一目見てから、頭の中はずっとはじめさんのことばかりで、なんか食欲もなくて、何て運命的な出会いなんだって思ってしまう。 「ねえったら」 ……もし、もし仮に、はじめさんがうちに遊びに来ちゃったりなんかしたとき……このポンコツロボットがあるなんて知れたら…。どうしようか…やっぱり早いとこゴミに「レーザービーム出すよ」 「ああああもう!!何か用!?」 現実に引き戻される。ソウジがうんざりしたような顔で私を呼んでいた。 「僕、ここにきてからずっと同じ服なんだけど」 「は?ロボットだから汗もかかないし、別にいいでしょ」 「生理的に無理」 何なのこいつ……!どっかの国の王様か!? 「替えの服ないの」 「ないよ」 「ていうか何で今日はご飯も食べないでうずくまってるの?」 絶対に言ってやらない。一目惚れしたなんて言えばまた論理的じゃないだの幻想だの言われるに決まってる。 「ああ、もしかして恋煩い?」 「!?はっ?べっ、別に違うし!」 「目が泳いでるんだけど。知ってる?好きな人のこと考えてる間は食欲なくなるんだよ」 「うっ……」 「生物は生殖行動を第一とするからね。他の動物も同じ。要するに君は生物学の上ではオランウータンとそう変わらないってことだよ」 「うるせええええ!!!」 /恋愛は非科学的すぎます |