ぴかぴかに磨かれたウィンドウ。ちりりん、とドアを開けると明るい店内に、よく映える花が目に入る。私はこのお店で、パティシエをしている。 スタッフルームで着替えて急いでホールへ行くと、皆もう集まっていた。 「おはようございます!」 「じゃ、朝のミーティングを始める」 「よろしくお願いします」 皆が一堂に会する朝のこの雰囲気。いつになっても緊張はほどけない。土方さんの第一声で緩んだ気が引き締まる。てきぱきと指示が出されていく。 「斎藤は今週中に会計処理を頼む。だが通常業務を優先してくれ」 「はい」 「それから、原田は予約ケーキの担当。平助はその補佐とレジ横の焼き菓子補充」 「おう!」 「わかった」 「それから、総司…てめえはトイレ掃除が終わってから通常業務にかかれ」 「えぇー」 「やかましい。そして…なまえ、お前は俺と買い出しだ。その後、ちょっと特別任務を頼む」 「へっ?」 いつもならここで、ショーケースのケーキ補充なんだけど。特別任務って何だろう…? 「じゃあ全員解散。お前は着替えて来い」 そんなわけで今日も1日が始まるのだけれど、いつもとちょっと違う土方さんの様子が気になった。 * 「で、買うものは以上だな。紅茶はまだ残ってたし、帰るぞ」 「土方さん、ところで特別任務って何ですか?」 買い出しの材料を両手に抱えながら、疑問の種を土方さんに尋ねると、土方さんは目を反らせて言った。 「俺が今から連れていくカフェの偵察をして来い。新しくできた場所だ」 それって…! 「いわゆる隠密行動ですね…!」 「……まあ何でもいいんだが、とにかくざっと品数、種類、紅茶珈琲のフレーバー、店内の雰囲気をチェックして来てくれ」 私も、他のカフェに行ってメニューを参考にさせてもらうこともあるからちょっと楽しみだ。 「わかりました!でも土方さんは行かないんですか?」 「…俺は顔が割れてるんだ。うちのカフェで唯一お前だけが割れてない」 「なるほどー…」 そういうことも気にしながら土方さんは動いてるんだ……やっぱりすごいなあ。でも私だけじゃ気づかないことがあるかも知れないし、不安じゃないとは言いきれない。気を抜かないようにしなきゃ。私がふん、と息を吐くのに土方さんは気付いたのか、頭をぽんぽんと撫でた。 「気張りすぎだ」 「目を皿にしてメニュー暗記して来ます!」 「頼もしいな」 土方さんと出会って、もう数年経ったけど、これからもカフェのみんなの役に立ちたい。行ってきます、と呟いて、土方さんの車を下りた。 (思いがけないモーニング・ティの始まり) |