ぴかぴかに磨かれたウィンドウ。ちりりん、とドアを開けると明るい店内に、よく映える花が目に入る。私はこのお店で、パティシエをしている。
スタッフルームで着替えて急いでホールへ行くと、皆もう集まっていた。
「おはようございます!」
「じゃ、朝のミーティングを始める」
「よろしくお願いします」
皆が一堂に会する朝のこの雰囲気。いつになっても緊張はほどけない。土方さんの第一声で緩んだ気が引き締まる。てきぱきと指示が出されていく。
「斎藤は今週中に会計処理を頼む。だが通常業務を優先してくれ」
「はい」
「それから、原田は予約ケーキの担当。平助はその補佐とレジ横の焼き菓子補充」
「おう!」
「わかった」
「それから、総司…てめえはトイレ掃除が終わってから通常業務にかかれ」
「えぇー」
「やかましい。そして…なまえ、お前は俺と買い出しだ。その後、ちょっと特別任務を頼む」
「へっ?」
いつもならここで、ショーケースのケーキ補充なんだけど。特別任務って何だろう…?
「じゃあ全員解散。お前は着替えて来い」
そんなわけで今日も1日が始まるのだけれど、いつもとちょっと違う土方さんの様子が気になった。



「で、買うものは以上だな。紅茶はまだ残ってたし、帰るぞ」
「土方さん、ところで特別任務って何ですか?」
買い出しの材料を両手に抱えながら、疑問の種を土方さんに尋ねると、土方さんは目を反らせて言った。
「俺が今から連れていくカフェの偵察をして来い。新しくできた場所だ」
それって…!
「いわゆる隠密行動ですね…!」
「……まあ何でもいいんだが、とにかくざっと品数、種類、紅茶珈琲のフレーバー、店内の雰囲気をチェックして来てくれ」
私も、他のカフェに行ってメニューを参考にさせてもらうこともあるからちょっと楽しみだ。
「わかりました!でも土方さんは行かないんですか?」
「…俺は顔が割れてるんだ。うちのカフェで唯一お前だけが割れてない」
「なるほどー…」
そういうことも気にしながら土方さんは動いてるんだ……やっぱりすごいなあ。でも私だけじゃ気づかないことがあるかも知れないし、不安じゃないとは言いきれない。気を抜かないようにしなきゃ。私がふん、と息を吐くのに土方さんは気付いたのか、頭をぽんぽんと撫でた。
「気張りすぎだ」
「目を皿にしてメニュー暗記して来ます!」
「頼もしいな」
土方さんと出会って、もう数年経ったけど、これからもカフェのみんなの役に立ちたい。行ってきます、と呟いて、土方さんの車を下りた。



(思いがけないモーニング・ティの始まり)