今日は授業がない。なまえは前日から相談室に泊まり込みである。室長風間は今日も学校へ出勤していた。あくびをしながら彼女が事務所へ下りていくと、冷蔵庫に天霧が作ったと思われるサンドイッチが入っていた。さすが、"相談室の母"の名をほしいままにした人物、となまえは感嘆した。そして机の上の置き手紙に気づく。それは不知火からで、今日は天霧と不知火はそれぞれ依頼が入っており、それが終わり次第直帰すること、9時から土方が来るという旨が記されていた。
「あれ、今何時……?」
時計を見ると、あと5分で9時になることを告げていた。



「全く…休みだからってだらだらしてんじゃねえ」
し、私服の土方先生…!はわああああ素敵すぎる。イケメン!地球に生まれてよかった!
「おい!聞いてんのか!」
「はい!とりあえず今日は下着泥棒の調査です!」
「……どうしてこうなった」
風間はいつもこんなことをしてんのか、と土方が嘆き、なまえが満面の笑みで頷く。
「あの、実は今までこんなに依頼が立て込んだことないんです。だから時間もないし、とりあえずは2つか3つほど、事件の決定的瞬間を押さえればOKです」
「決定的瞬間…」
淡々と説明をするなまえのその顔が真剣であることに、土方は少し驚いた。そして、ふっと笑みをこぼした。意外と一生懸命な所もあるじゃねえか。
「例えば浮気調査だと、カップルでいかがわしい場所に入って行ったりとか、ちゅーしてたりしたらすぐさま写真を撮ります!」
「……あ、ああ……」
手に持った一眼レフとがずしりと重い。土方は深くため息をついた。



「ここが現場です」
土方が運転し、なまえがナビしてたどり着いたのは、閑静な高級住宅街だった。
「人通り少ないですね。狙われる理由もわかるなぁ…ちなみに、この辺りが一番被害が多いみたいです」
「この通りが一番見通しがいいし、車停めて張るか」「はい!」
最初は意気込んでいたが、暖かい陽気に包まれ、日々の喧騒から隔離されたような穏やかさに、二人の瞼はどんどん重くなってきた。
「ちっ……だめだ、このままじゃ寝ちまう。この車、なんか音楽とか入ってねえのか」
「はっ……入ってることは入ってます、けど……」
事務所の車には、全て同じ曲しか入ってない。そうなまえが言い終わる前に土方が音楽を再生した。急に流れてくる爆音に、土方がハンドルに突っ伏し、なまえがこめかみを押さえて項垂れる。
「なんだこれは……!」
「ち、千景のキンキラ節、です……orz」
「orz」
そんな二人が同時に顔を上げた瞬間だった。少し離れた通りに、サングラスをかけた黒いパーカーの男が入っていく。
「「明らかに怪しい……」」
車を降り、駆け足で近寄ってみる。不審者がアパートの一階のベランダに近寄った。そして下着に手を伸ばした。来た、決定的瞬間!!なまえがすかさず写真を撮る。
「確保ぉぉおお!!!」
なまえの絶叫と同時に、土方が走って犯人を捕まえ、背負い投げを喰らわせた。
「一本!それまで!」



「余りにも呆気なく終わったな」
「そうですね」
その後不審者を警察に引き渡し、詳しいことを聞いた。相談室の依頼人以外にも、警察に下着泥棒の被害を訴えていた人がいたらしい。ゆえに、二人は警察協力をしたことになる。
そして、明らかに怪しかったあの犯人がなかなか捕まらなかった理由。それはどうやらこの付近に普段から黒いパーカーとサングラスを愛用する人がおり、住民は皆、その人と勘違いしていたために特に違和感を感じなかったから、だと。
「あーくだらねえ」
「でも住民の方は喜んでましたよ!土方先生のことを素晴らしい室長だって言ってました」
「……勘違いしてんのか」
この事件は閑静な高級住宅地で起きたこともあり、後にYapoo!Japanの記事になった。
ちなみに見出しは、"お手柄!相談室室長と現役女子高生助手の最強コンビ"で、あくまで風間の存在を無視する結果となった。
「土方先生!私たち記事になってる!」
「……複雑だ」



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