「なまえ」
何も考えず廊下を歩いていたなまえは、急に首根っこを掴まれて近くの教室に引きずられた。幸い他の生徒は誰も気付いていない。教室には相変わらず見慣れない黒スーツ姿の風間が立っていた。
「室長!いきなりびっくりするじゃん……」
「良いか、よく聞け。今日から1週間、俺は永倉が担任しているクラスの生徒と面談をしなくてはならぬらしい」
「まじでか」
「全く……何も知らん生徒の話を聞いて一体何を喋れと言うのか。土方の奴」
そっか。じゃあ私も土方先生と面談しなきゃいけないんだ。そろそろ進路の話になるんだろうな……。なまえは思わず鬼教師土方の拷問に身震いをした。
「それでだ、」
室長の表情に影が差す。でもどこか不敵に口元に笑みを浮かべて腕組みをしている。きらきら光る金色の髪の毛。
「俺はしばらく相談室に顔を出せない」
「はぁぁあ!?」
「仕方なかろう。授業がフルに入っている上に、放課後も面談だ。チッ…」
そんな……だって室長のいないお悩み相談室なんて…麺のないラーメンみたいなもんじゃん…。
「……不知火と天霧が居るだろう」
「っ、そうだけど…さぁ…具だけあったってさぁ……」
「?何を言っている。たったの一週間だけだ」
…室長。ずっと室長だったはずなのに、なぜか今は先生。さみしい、なんて思ってしまった。でも絶対に室長には言わない。室長だって依頼でやってることだし……きっとわがままだって鬱陶しがられる。
「それから、不本意ながら……俺がいない間のためにおそらく役に立たないだろうが、一応助っ人を呼んである」
「えへえッ!?何か今日は聞いてないことばっか言われるね!?サプライズ!?」
「いいからとりあえずお前は相談室へ行け!!依頼の書類が応接室にある。わざわざこの俺がホワイトボードにやることも書いてやっている」
そうして部屋から叩き出される。痛いなあ…もう。何か、室長怒ってる?
ふと時計を見ると、ちょうどホームルームが始まりそうな時間だった。だんだん小さくなる背中に、ぽつりと呟く。
「……室長のハゲ」



「こんにちはー」
相談室に着くと、書類を整理していた天霧が振り返った。
「あなたでしたか。お疲れさまです」
「天霧さんもお疲れさまです!室長、今日から一週間来ないんだってー」
「……。きっと、いつもより良いことがありますよ」
「なにそれ」
「おーい!なまえ!」
奥から不知火がなまえを呼んだ。何やら仕事を手伝ってほしいようだ。なまえはそれに明らかにめんどくさそうな顔をしたが、ぶつぶつ言いながら奥へ入っていく。
「何ですか」
「依頼だよ依頼!一週間のノルマにしては多すぎだろ?」
「えっと、ホワイトボード……なになに?」
なまえへ、と書かれた欄をふと見る。
・今日から泊まり込みで仕事をすること。親に連絡は入れておけ
・事務所の掃除(主にトイレ)をすること
・TSUTAYAに鬼ハゲ新作ライブDVDを取りに行くこと
・土方担当の浮気調査の補佐
・土方と痴漢被害の調査
・土方と下着泥棒の調査
・だが土方とは話すな

え、ななななっ何で土方!?これって土方先生…!?しかも浮気調査と下着泥棒の調査と痴漢被害の調査って、室長何考えてんの!?普段自分が嫌がる仕事をここぞとばっかり押し付けてサイテー!しかもこれだけ一緒に行動するのに、話すなって。
「なまえ、いらっしゃいましたよ。助っ人が」
窓から駐車場を見下ろす。急いで靴に足を突っ込んで相談室の外に飛び出てみると、いつも学校で見る車。ちらりと見えた、サングラスをかけた横顔。それじゃやっぱり……!
「……よぉ、みょうじ」
土方先生ぇえぇぇえぇぇぇえ!!!



「というわけで…一週間、風間の代わりに働くことになった」
まとめると、土方先生たちが(室長曰く)無理を言って室長に永倉先生の代わりをさせた代わりに、土方先生がお悩み相談室で一週間働く、と。やったあああ!天霧さんの言ってたことはこういうことだったんだね!
「わっ私、土方先生とならいつもの比べ物にならないぐらい頑張れます(はぁと」
「ここに関してはお前の方が先輩なんだ、いろいろよろしく頼む」
「もちろんです!じゃあまず相談室をご案内します」
そうして張り切るなまえは、すでに疲れた様子の土方に気づくはずもなく、元気に相談室を回り始めた。
「応接室は2階で、事務所が3階。4階は寝泊まりできます。とりあえず事務所にどうぞ!」
「何だ、結構広いんだな」
「そうですね。5階と6階に室長が住んでるんで」
「………」
こうして室長代理を迎え、新たなメンバーでの活動が始まろうとしていた。