「おーい起きろ」
「む、…ぅおお」
「寝起きの第一声がそんなに色気ない奴は初めてだ」
ここどこ!?
勢いよく起き上がって気付く。そういえば……私家出中だったんだ。相変わらずスウェット姿のさのふぃがベッドの脇に立っていた。
「私…ベッドで寝てたっけ…」
「ソファーで寝かすわけにいかねぇから俺が運んだんだよ」
「おおう……!」
どんだけイケメンなのこの人。昨日は結局私に手を出すこともなかったし。まあ当たり前と言えば当たり前か…。リビングに行ってソファーを見ると、布団が丸まっている。さのふぃ、私をベッドで寝かした代わりに自分がソファーで寝たんだ……!
「朝飯、今から作るから」
「えっ、いや、私それぐらいする!申し訳なさすぎて!」
「そうか?別に構わねえけど…食えるもん作ってくれよ」
「おうよ!」
ちょっと心配そうな顔をするさのふぃを無視して洗面所へ。顔を洗って歯を磨いて、すぐにキッチンに移動する。よっし!頑張ろ。
結局、有り合わせのものでちゃっちゃと準備したけど、さのふぃは満足してくれたらしい。机の上は空いたお皿でいっぱいだった。よかった!
「お前料理できるんだな」
「ちょっとだけならね」
「旨かったぞ」
誰かにご飯を作ったのは初めてのことかも知れない。淹れたコーヒーから立ち上る湯気を、じっと見ていた。コーヒーは嫌い。苦いから。

+。☆*゚


「あー、だるーーうぅううー」
「えらい満喫してんな」
私の伸びに、前髪を私のピンで留めたさのふぃがだるそうに返事をする。
「学校行かなくていいとか素敵すぎ!」
「あー俺も学生時代そうだった。けど社会人になったら休めねえからなあ」
「休んでるじゃん」
「馬鹿野郎!有給使ってんだよ」
「それならスウェット姿で寝転がってエロ本読んでないで旅行でも行けばいいのに」
「一人旅はわりとつまんねえし、かといって連れと行くのもなあー」
完全な干物発言……。
「彼女は?」
「いねえよ」
意外。もてそうなのに。でも…彼女がいたら私の相手なんかしてないか。
「ま、たまの有給にスウェット姿でコンビニ行ったついでに、やかましい猫連れて帰るのも悪くねえかもな」
はっはっは、と笑ったさのふぃ。猫……。一応華の乙女なんだよ。別にいいけど。
「でも今のうちにサボるなりなんなりはしとくべきだわ」
「ふうん?」
「たまに、だぞ。いつもサボるのは駄目だ」
そういえばさのふぃも、家出したことがあるんだっけ。どうして家出したんだろう。また今度詳しく聞いてみようかなあ。
「そうだなまえ、そろそろ買い物行くけどお前も行くか?」
「どこ?コンビニ?」
「いや、今日はショッピングモール。たまには俺も有給使って服でも買わねえとな」
「なるほど、対合コンの武装着ですな」
「そうそう」
「その前にお皿全部洗ってくる!着替えてて」
二人しかいないから、すぐに全てのお皿を片付け終わった。じゃあ支度しようかな。カバンから服を取り出す。私が着替えている間に、さのふぃもスウェットを脱いで普通の服に着替えて来た。おおお……!むしろ外出着はおしゃれなんだね。ちょっと感激。ていうかずっと同じ格好しか見てないからすごく新鮮。誰もいない広い部屋に鍵をかけて、駐車場に移動する。
「さのふぃ、ずっとスウェット着てるわけじゃないんだね」
「当たり前だ!スウェットで外出るのはゴミ捨てとコンビニ行くときだけだよ」
「そっか」
「それに、お前も寝間着スウェットじゃねえか」
「でも私スウェットで外出ないもん」
「……さ、行くぞ」
「………」
誤魔化された気がする。……まあいいか!
一人用にしてはちょっと大きい車に、勢いよく飛び乗った。車の中にも、やっぱりエロ本が山積していた。
「そういえば、」
「ん?」
「お仕事何してるの?車も大きいし、お家も綺麗だし」
「それは教えられねぇな」
「ふーん…そんな怪しいお仕事なの……」
「あっ!そういう意味で言ったんじゃねぇぞ!」
「別にいいよ。私何も聞かなかったから」
「………」
にやりと冗談でさのふぃに笑ってみせる。誰にでも秘密があるのはわかってるけど、どんなお仕事かちょっと知りたかったな。