みょうじなまえ、絶賛人生初の家出中。

どうしてかって言うなら、全てがめんどくさくなったから、というのが正しい。

もううんざりなのだ。私の生活に口出しばっかで、端から理解しようとしない親。体裁ばっか気にして動く教師。自分さえ楽しければそれで満足ゥみたいな友達。どれもこれも私の感情を逆撫でする。ムカつくとしか言い様がない。
とにかく、少しの間でいいから何もかも忘れたくて。かっこつけて言うならば自分探しの旅である。そんなわけで深夜現在、ぱんぱんの鞄を引っ付かんで家を飛び出し、今に至る。
「……どこ行こう」
辺りは真っ暗、街頭に照らされたガードレールを指でなぞる。車が通るたびにライト眩しくて、思わず顔をしかめた。
この時間だと誰かの家に行くには遅すぎるし、かといってホテルに泊まるお金があるわけない。
……とりあえず駅に向かって歩こう。

+。☆*゚


「君、こんな場所で何をしてるの?」
うわああキター!!……家出の定番、補導。警察っぽい人が近づいてきて言った。逃げなきゃ逃げなきゃ…!無意識に足早になる。
「まだ未成年のようだね。こんな時間にそんな荷物抱えて……まさか家出じゃ」
「違います家出なんかじゃないです決して!!」
あ!コンビニがある。とりあえずあそこまで頑張ってたどり着けば、なんとかトイレに立て籠れるかも……!ここは逃げるが勝ちだ!!
「君っ、待ちなさい!どこへ行くんだ!」
「私用事あるんで!!」
そう言って走り出すけど、鞄を持ってる分だけ私が不利、さらに向こうは自転車だし。すぐさま追い付かれる。
「身分証は?出しなさい」
腕を強く掴まれて、咄嗟に振り払う。
「ちょ、やめてください触んないで!」
「お家どこ?親御さんに電話……」
冗談じゃない!こんなんで親に呼ばれて、結局家に強制送還されたんじゃ、家出した意味ないじゃん!!
「触んなって言ってんだろぉぉおお!!」
「おう、待たせたな」
私が渾身の力を込めて叫んだと同時に、突然後ろから声が聞こえてきた。一瞬、警官が怯むのが分かった。
「帰るぞ」
振り返ると、そこにはコンビニの光に照らされたスウェット姿のイケメンが立っていた。照らされた赤っぽい色の髪の毛がきれい。あ、キティちゃまのサンダル……そして片手にはコンビニで買ったと思われるエロ本……とビールの缶が何本か入ったビニール袋を1つ、下げていた。
「ほら、荷物貸せ」
目の前の男の人は私の荷物を軽々と持ち上げて、コンビニからどんどん遠ざかっていく。
「まっ、待ちなさい!」
私と同じく呆気に取られていた警官が、彼を呼び止めた。振り返るイケメン。
「ああ、すまねぇな兄ちゃん。こいつ俺の妹なんだ」
「え……」
「そっ、そうでしたか……君、呼び止めてしまって悪かったね」
ブフォオ!!!妹って誰が!?誰の!?
少しためらった後あっさり引き下がる警官に、思わず困惑する。イケメンは、すたすたと歩みを止めない。そのまましばらくして、完全に警官が見えなくなった位置で、ようやく彼は後ろを向いた。
「危なかったな」
「あ、あの……ありがとうございました。でも、どうして、」
にかっと笑った顔は暗くてよく見えなかった。けど、
「心配すんな。俺も昔…家出して、そんときのこと思い出して、ちょっと守ってやりたくなっただけだ」
ははは、と笑うこの人は、一体どこへ向かうのだろう。
「俺んちでよかったら来るか?」
「え……」
「どうせ勢いで家出して当てもねぇんだろ」
だっ、大丈夫なんだろうか…。襲われたりあんなことやこんなこと…「あ、お前襲うほど飢えてねぇよ」
「心の中を読まないでください!もしやエスパー!?エスパーなの!?」
「分かりやすすぎなんだよ」
ま、外で野宿よりはいいと思うけどなあ、とイケメンは言った。……信用してもいいの?
でも、なるようになるか。貞操が危なくなったら舌噛みきって死のう…「人ん家で舌噛みきるとかは止めてくれよ」

+。☆*゚


「おじさん、」
「オイ」
「…お、おにーさま…」
「何だ」
「名前、何ていうの」
「俺は原田左之助ってんだ」
「じゃあ…さのふぃで」
「おま…もっと何かこう、他にあるだろ?原田さんとか左之さんとか…」
「さのふぃ」
で、原田さん改めさのふぃの後に着いて歩いた先には、ちょっと高級そうなマンション。意外だ…!スウェットなんか着てコンビニにいるから、てっきりボロい感じの○○荘、みたいなとこに連れて行かれるのかと思ってた。部屋の鍵を開けるさのふぃの手を見る。おっきいなあ。
「お前、」
「私は、みょうじなまえ」
「なまえ…か。まあゆっくりしてけよ」
おじゃまします!!とドアを勢いよく開けた。玄関には、エロ本が山のように束になっていた。