「……じゃあな、お前ら。元気でやれよ」 「なんだよ土方さん。また帰って来るんだろ?」 「僕的には別に帰って来なくていいですよ」 がやがやといつもどおりのメンバーが見送る中、そこになまえはいなかった。場所と日時は伝えておいたが、結局来なかった。俺が混乱させるようなことをしたからだろう。すまねえ、と誰にも聞こえないように呟いた。伝えたいやつはここにはいないのだ。 「土方さん、着いたら連絡して下さい。メールも毎週…いや、毎日送りますので」 「あ…ああ、よろしくな斎藤」 「それから、なまえですが」 斎藤が真面目な顔つきになる。俺は予想しない言葉が出てきて少し面食らった。 「ちゃんと、土方さんがいない間にも俺が一人前にしますので」 不意に力が抜ける。敵わねぇな。俺がふっと笑うと斎藤も笑った。 「…頼んだぞ。それじゃあな」 搭乗手続きを済ませて、手荷物検査に進もうとしたとき、後ろから大きな声がした。 「土方さん!!」 なまえだった。……また泣きそうな顔してやがるな。来るのが遅い、大声で名前を叫ぶな。たくさん言いたいことがあったけど言わなかった。俺が近づいて跳ねた髪を撫でると、なまえの目が潤んだ。 「なまえ、頑張れよ」 「土方さぁん…やっぱり行かないで…」 「そりゃ無理だ。でもお前が待っててくれるなら、俺は帰ってくる。前も言ったろ?」 「ふぇー…だってっ…わ、たしまだ高校生だし…ひっく、土方さん…モテるからっ、」 なまえがひっくひっくとしゃっくり上げる。すまねえ、と小さく呟いて、俺は涙で濡れた手を握って言った。 「いい女になれよ」 「は、い…!」 「じゃあな」 俺は、立ったまま泣いていたなまえの姿を忘れずにいようと誓った。キャリーバックがごとんと音を立てる。そして飛行機に乗り込んだ。 「なまえちゃん、これ」 土方さんを見送ったあとにお店に戻ると、皆が私を待っていた。沖田さんが差し出したお皿の上には、タルトが一つ乗っている。真っ赤な、綺麗なタルトだった。 「土方さんがね。君にって」 「ちぇー、いいよなあなまえだけ!オレにもほしかったなあ!」 「俺が土方さんだったとしても平助には作らねえわ」 「ひでえよ左之さん!」 「ちょっとうるさいよ。ほらなまえちゃん、食べなよ」 ぱくりと一口食べる。土方さんが最後に私にくれたタルトの味は、前に飲んだミルクティーと似ている。私があのとき土方さんに会わなかったら、こんなに辛い想いはしなかったかも知れない。でも、夢を見つけることもなかった。ぽんぽんと原田さんが私の背中を擦った。私は涙を拭って言った。 「原田さん、斎藤さん。これからよろしくお願いします」 「おう、任せとけ。土方さんには及ばねえけどな」 「…早速始めるか」 原田さんも斎藤さんも笑った。 (涙とさよなら、) |