「土方さん」
声のする方を向くと、新年のイルミネーションに照らされた表情が綻んでいる。俺の顔を見てこんなに嬉しそうな顔をするやつは他にいないだろう。
「…ただいま」
「おかえりなさい。仕入れはどうでしたか?」
「変わった茶葉が手に入ってな。また店に出そうと思う」
「わー今からもう楽しみですね!」
そんな会話をぽつりぽつりと交わしながら歩いていると、初詣に行こうとする人の波が早くも出来てきて。それでも相変わらず小さな体は俺の後を一生懸命着いてきていた。
「おい、」
「なんですか?」
「手」
すれ違う人に、押し流されてしまわないように、ぎゅっと手を握った。まだまだガキなこいつでも、これが何だかわかっているんだろうか。人混みは嫌いだが、今日は悪い気はしなかった。



除夜の鐘が響く。今年ももう終わりだ。そうして鐘が鳴り止んで、あけましておめでとう、そんな声が口々に聞こえてくる。隣を見ると、鼻を赤くして目を潤ませたなまえが笑っていた。
「土方さんと年越しが出来てよかった」
「お前が嫌だと言っても多分来年も一緒だ」
「嫌だなんて言うはずないです」
いひひと笑ったその顔は、初めて会った時とは違った。綺麗になった。たかが女子高生、そう思っていた俺を背に、どんどんなまえは前へ進んでいく。短かった髪は伸びて、気が付いたら成人していた。気が付いたら大人になっていた。そんななまえを見て柄にもなく焦ってみたりもした。
「今年もよろしくお願いします」
「ばんばん鍛えてやるから覚悟しとけ」
「任せてください!」
人混みから抜け出すように、俺たちはただ歩いた。なんとなく二人になりたかったのかも知れない。もちろん手は繋いだままだった。いつしか会った歩道橋の上を通り、店へ向かった。結局、俺たちの原点はあの場所でしかない。
「斎藤さんがお蕎麦作って待ってますよ。年明け蕎麦」
「なんだそりゃ」
もう一度、いひひと笑った顔。頬を捉えてそっと触れた。この時間を、忘れないように。