「斎藤さん、お掃除完璧です!」
「平助も総司も役に立たねえからな。なまえがほぼやったんだとよ」
下ごしらえを終えた左之となまえがスタッフルームに帰ってきたとき、ちょうど俺は作業をしているところだった。
「ご苦労だったな…」
「いえ。また明日も開店早いですからね。頑張らないと!」
「生き生きとしているお前を見ていると…俺も良い気分になるな」
レシピを抱えながらえへへ、と笑うなまえは、子どものようににこにこと笑う。元旦から仕事だというのに、新しいケーキの発売が楽しみで仕方ないらしい。明日は通常通りの開店時間だ。
「あの、斎藤さんはまだ片付けをされるんですか…?」
「ああ。明日は元日故、いつもとは違う皿とカップを出さなければいけない」
「じゃあ俺も手伝うぜ」
「私もやります!これ、洗って拭いたらいいんですよね」
自然な流れで作業に取りかかる二人。女子を遅くまで残して置くわけにはいかないのに。それでも、もういい、とは言えなかった。
なまえが余りにも楽しそうに作業をするものだから。

左之が、くああと欠伸をしたのと同時に、時計をちらりと見やる。長針は丁度6を指していた。あと少しで年が開ける。
「やっと終わりましたね!」
「そういえば仕込みはもういいのか」
「はい。でも原田さんがほとんどやってくださっていて。平助くんと私でちょっとだけやりました」
「いやいや、お前はよく働いたよ」
やりきった、という顔で二人はガッツポーズをした。ふと笑ってしまう。
「二人とも今日は店に泊まるのか?」
「私は、一端初詣に出てからまた戻ってきます。約束してるので」
「俺は一回家に帰ってから来る」
「わかった。ではなまえ、途中まで送ろう」
「え、いいんですか?」
「当たり前だ」

店を閉めて、寒空の下を二人分の足音が這うように響く。
「ありがとう。いろいろ手伝わせてしまったな」
「いえ!やらないと誰かさんに怒られちゃいますからね」
「!」
「斎藤さん、送っていただいてありがとうございました」
もう一度にかっと笑ったなまえは、良いお年を、と言い残してぱたぱたと掛けていった。歩道橋を上っていくその足取りは花が咲くように軽やかで。
……きっと今から、彼の方に会いに行くのだろう。そういえば、帰国予定は大晦日の夜だと聞いた。小さく紡がれる鼻唄に、くすりと笑いが漏れた。